Snow dancer:スバル「WRX シリーズ・ホワイト」レビュー

毎日の退屈な運転に飽きてしまったとき、あなたはどの車のキーに手を伸ばすでしょうか? 2020年モデルのスバル「WRX シリーズ・ホワイト(WRX Series.White)」は、昔ながらの価値観が戻ってきたことを実感できる車です。

スバルは来年の新型WRXの計画を控えていますが、現行モデルでのプレイが終わったわけではありません。今回の特別仕様車は、2020年モデルのWRXおよびWRX STIに、専用のボディカラー、専用ホイール、そしていくつかの特別仕様を施した米国限定モデルの「シリーズ・ホワイト」です。

シリーズ・ホワイトはWRX、WRX STIそれぞれ500台ずつ計1,000台の限定生産。

WRX STI シリーズ・ホワイトはより速く、よりパワフルですが、スタンダードなWRXバージョンがバランスの取れたスイートスポットだと思います。2.0L ターボエンジンは268馬力と、WRXファミリーの中では最もパワフルなエンジンかもしれませんが、決して無茶苦茶なものではありません。このパワートレインが意味するのは、あらゆる法律に違反することなく、適切に運転していると感じることができる車であるということです。

セラミックホワイトのボディに、マット仕上げのブロンズホイールがよく似合う。

広々としたサーキットに持ち込むのであれば、ベストな選択肢はほかにもあるでしょう。しかし、あのターボのうなり声と、信頼に厚い6速マニュアルの組み合わせは、すぐに免許を取り上げられてしまうような状況に陥ることなく、日常からの逃避行を楽しむことができます。

フロントの倒立式ストラットとリアのダブルウィッシュボーンにビルシュタイン製のダンパーを採用したスポーツサスペンションが、足回りをしっかり固めています。

言わずと知れた名機「EJ20」を積んだ最後のシリーズとなる。

身軽で、軽快で、楽しい。これはシンプルなレシピですが、なぜ多くの自動車メーカーがこのレシピを忘れてしまったのか、不思議に思います。WRX シリーズ・ホワイトのハンドリングは、正確で俊敏。標準装備の全輪駆動システムとトルクベクタリングは、神経質なドライバーにも安心感を与えてくれます。

STIとは異なり、通常のWRXにはドライバーズ・コントロール・センター・デフをはじめとする複雑なシステムが搭載されていません。車をいじくり回すことが好きな人もいるとは思いますが、「完璧なセッティング」から外れてしまったのではないかと、不安になることもあるのではないでしょうか。それならば、ありのままのWRXにすべてを委ねてみるのもいいかと思います。ドライブの仕方は、WRXが教えてくれます。

トランスミッションは6速マニュアル。

シリーズ・ホワイトには、キーレスエントリーとプッシュボタンスタート、LEDフォグランプ、ステアリング連動ヘッドライトが装備されています。これはWRXとしては素晴らしいことですが、多くの人々に「新車には必ずついている」と思われても仕方がないでしょう。

マットブロンズの18インチホイールはセラミックホワイトのボディカラーとよくマッチしていますが、WRXにはレッドよりもWRX STI シリーズ・ホワイトと同じブレンボ製シルバーキャリパーを装着してほしかったですね。もちろん好みは分かれるとは思いますが、STIの立派なリアウィングより、控えめなスポイラーに好印象を持つ方も多いのではないでしょうか。

WRX STIではリアウィングが特徴的だが、控えめで紳士的なWRXのリアスポイラーも好印象。

控えめに言っても、WRXにはいくつか欠点があります。インテリアの質感とデザインは少し前の世代のもので、硬いプラスチック部品が多く、静粛性の高い車とは言い難い(ロードノイズと風切り音は予想以上に目立つ)のが正直なところ。ウルトラスウェード張りのレカロシートは座り心地よく、車内やトランクも広々としていますが、赤をアクセントにしていても車内は少し暗い感じがします。標準装備の「パフォーマンスパッケージ」により、軽量化のためサンルーフレスとなっていることも、その理由の1つです。

若干古さを否めないインテリアの質感については、世代末期ということもあり仕方がないところ。

シリーズ・ホワイトは、日常生活において多少の譲歩を要求します。マニュアルトランスミッションは毎日の通勤時に少し疎ましく思うかもしれませんし、乗員が喜ぶようなしなやかな乗り心地は提供できなかったりします。しかし、最近の状況を考えるに、「日常生活」という言葉自体がかなり奇妙なものになりつつあります。

パンデミック(社会的孤立化)の時代に生きていると、クルマに対する感覚が少しずつ変わっていきます。自宅で仕事をする人が増えている今、「通勤に便利」というのはあまり重要ではないように思えてきました。乗り心地の良さは、実際に車を運転することが少ない場合、つまらなく感じてしまうことさえあるでしょう。

クルマに何を求めるのか。パンデミックによりクルマに対する価値観も大きく変わるだろう。

私たちはいつまでも自己隔離を続けるわけではありません。そのうち日常的な移動が再開され、週に一度のお楽しみとして食料品店に行くこともなくなるでしょう。もっと美味しいものが食べたい、もっと面白いことがしたい、という強い欲求に駆られてしまうかもしれません。

もし退屈から逃れたいなら、早急に行動する必要があるでしょう。「熱狂的な車」、つまりWRX シリーズ・ホワイトのように、ドライブトレインとのリアルなつながりを感じられる車は、ますます珍しくなってきているからです。依然としてマツダ「ロードスター」も残り続けていますが、誰もが2シーターのオープンカーで日常生活を送れるわけではありません。スポーツクロスオーバーは成長しているカテゴリーですが、軽快なセダンに乗りたくなる時もあります。

ビルシュタインのハイパフォーマンスチューンが施された足回りにより、素直なハンドリングを実現。

北米価格33,995ドル(約366万円)で手に入る2020年モデルのWRX シリーズ・ホワイトは、昨年の米国での平均新車購入額を下回っています。また、500台の限定生産ということもあり、希少性はかなり高まるでしょう。スバルのカタログは限定モデルに事欠きませんが、それが長期的な市場価値にどのような影響を与えるかはわかりません。

運転の楽しいスポーツセダンはどんどん希少になっている。

しかし、クルマの価値は世間が決めるものではなく、オーナーが決めるものです。WRXおよびWRX STIの特別仕様車シリーズ・ホワイトは米国限定モデルであり、残念ながら日本では手に入れることができません。ベースにあるWRXの素晴らしさは変わりませんが、移ろいゆく時代の中、スバルの名車も世代交代を迎えようとしています。

さて、あなたはお金を払って、どんな選択をしますか。笑顔になれる車、ドライブに行くのが楽しみになる車、それとも単なる家電製品ですか?

林 汰久也

愛知県在住 28歳。ハウスメーカーの営業を経て、ITベンチャー企業のメディア事業に参画。現在は退職し、フリーのライターとして活動中。マツダRX-8、シトロエンC4を乗り継ぎ、現在は2010年式スバル フォレスターに落ち着く。

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