踏めばジュワ~っとトルクが出る BMW 120i カブリオレに試乗

今はなきBMW 1シリーズのオープンモデル、『120i カブリオレ』に試乗しました。2008年~2014年に販売されていたモデルで、以降は2シリーズとして発売されています。2.0L 直列4気筒のパワーは十分で、直進安定性も高さには目を見張るものがあります。ただ、細かい部分でいくつか気になる点も。今や希少な1シリーズのカブリオレとはどんなクルマなのか、チェックします。

2004年に登場した初代1シリーズには、標準の5ドアハッチバック以外にクーペとカブリオレが用意されていました。今回試乗した車両は、2008年式の120i カブリオレ。上品な印象を醸し出すシャンパンゴールド(カシミアシルバー)の個体です。

伸びやかでロマンチックなスタイリング

発売から13年経った今となっては、フロントマスクのデザインにはやや古さを感じます。「ちょっと前のBMWってこんな顔だったよな」と少し懐かしい気分にもなりますが、サイドから見ると、伸びやかで無駄のない造形に目を奪われました。ヘッドライトからリアまで一直線に伸びるショルダーラインが視覚的な安定感を与え、曲線を描く下部のパネルラインはふくよかさと力強さを感じさせます。

BMW『120i カブリオレ』

全長4,370mm、全幅1,750mm、全高1,395mmのコンパクトカーであることを忘れさせる、余裕のあるスタイリングです。

インテリアは基本的に標準の1シリーズと同じデザインで、スポーツモデルによく見られる「運転席側に傾斜したダッシュパネル」など、ドライバー中心のレイアウトは採用されていません。助手席や後部座席に乗る人と一緒にドライブを楽しむクルマ、という作りです。

シンプルながら精緻なデザイン。ステアリングはリムが太目で握りやすい。

では、後部座席の居住性はどうなのか?実物を見る前は「きっと窮屈で子供しか乗れないんだろうな…」と不安に思っていたのですが、とんでもない。身長167cmの筆者が楽に座れるほどの余裕がありました。膝前の空間もこぶし1個分はあります。ただ、キャビン全体がリアにかけて内側に絞り込むような形状となっているため、無理やり中央寄りに座らされる感があります。

肩身が狭いという言葉がぴったりはまりそうですが、小柄な方や子供であれば問題ないでしょう。ルーフを閉じた状態でも、頭が当たることはありませんでした。ただし、身長170cm以上の方には助手席をおすすめします。

インテリアで気になったのは、収納の少なさです。ドアポケットは狭く、車検証や携帯電話くらいしか入りません。ドリンクホルダーはセンターコンソールに1個だけ。しかも、このドリンクホルダーはアームレストの下に隠れており、飲み物を入れるとアームレストを使うことができません。底も浅いため、500mlのペットボトルが走行中にグラつきます。

また、運転席と助手席にはシートヒーターが備わっており、強さを3段階に調整できるのですが、強弱の差が極端で使いづらいと感じました。1段階目だと弱く、2段階目に上げると途端に熱くなります。これと同様に、エアコンの温度設定にも難があります。120i カブリオレはオートエアコンを標準装備していますが、クーラーを使いたいとき、設定温度を下げるだけでは冷気は出ません。雪のマークがついたボタンを押してモードを切り替えない限り、温風が出続けます。

こうしたデメリットは、欧州車のカブリオレという性格上、致し方のないものかもしれません。むしろBMWやスポーツカーのオーナーからすると「これが当たり前」なのでしょう。

2.0L 直4自然吸気 FRの気持ちよさ

搭載されているパワートレインは2.0L 直列4気筒DOHCエンジン。前期モデルのため、最高出力156ps/6,400rpm、最大トルク200Nm/3,600rpmを発揮します。車両重量1,560kgと、サイズの割にやや重い(標準のハッチバックより140kg増)のですが、パワー不足を感じる場面はほとんどありませんでした。

エンジン搭載位置はかなり後方で、完全なフロントミッドシップと言える。

1シリーズ クーペには、306psの3.0L 直列6気筒ターボを搭載する上位モデル『135i カブリオレ』も存在しますが、日本に導入されたカブリオレは120iのみ。数値だけ見ると、どうしても見劣りしてしまいますが、今回の試乗ではむしろ「2.0L 直4でちょうどいいのでは」とすら思えました。

低回転からしっかりトルクが出て、街乗りではストレスを感じません。高速道路での合流でも、頑張ってアクセルを踏む必要もなく、自然と流れに乗ることができました。低速~高速まで、基本的には2,000rpm以下で巡航できます。アクセルを踏み込めば、吹っ飛ぶようなパンチ力こそないものの、「ジュワ~」とあふれてくるトルクがとても気持ちいい。果汁グミのように多幸感のあるエンジンでした。

キビキビとしたスポーティーな走りよりも、まったり落ち着いたクルージングに向いている。

アクセルペダルを放すと、加速はすぐに抜け、想像していた以上にエンジンブレーキが効きます。これは決して不快なものではなく、走行中のコントロール性を高める要素と言えます。

ステアリングは少し重く、街乗りでは腕が疲れてしまいました。また、ハッチバックベースのコンバーチブルでありながら50:50の前後重量バランスを実現している点は「さすがBMW」といったところですが、ハンドリングのキレの良さはいまひとつ感じられませんでした。ただ、バランスを崩すような怖さを感じることはなく、加速しながらコーナーを抜けていくFRならではの走りを楽しめます。

当然ながらアクセルペダルはオルガン式。長時間走っても足が疲れにくい。

高速走行時の直進安定性も非常に高く、本当に線路の上を走っているかのような不思議な感覚を覚えました。ステアリングの重さも、高速道路ではメリットとなります。オープン・クローズともに安定性は変わらず、どこまでも走り続けたいという欲求に駆られます。先述の通り、低回転を維持して巡航できるのも美点です。これは、アウトバーンで200km/hで走りたくなる気持ちも理解できます。

オープントップの開放感 デザインに工夫も

BMWの中ではエントリーモデルの1シリーズですが、カブリオレのルーフは質感の高い布製で、触った感触もクッション性があり好印象。意外に遮音性が高い点にも驚きました。ノイズは少なくありませんが、試乗中に不快感を覚えることはありませんでした。エンジンやマフラー、ロードノイズなど音のバランスが整っているのでしょう。ルーフは22秒で開閉可能で、40km/h以下であれば走行中も作動します。

オープン時、運転席と助手席の間に風が通る。耳が冷たくなってしまった。

ルーフを開けて走った時の風の巻き込みは、それほどひどいものではありません。試乗したのは12月初旬ですが、マフラーや手袋などある程度の防寒対策をしていれば高速走行も問題ありませんでした。ただし、キャビン中央に風の渦ができるので、左耳は冷たくなりました。後部座席は風の影響をもろに受けるので、落ち着いて乗っていられるのは前席だけでしょう。

最大の特徴は、なんといっても開放感の高さ。オープンカーなのだから当たり前と思われるかもしれませんが、120i カブリオレはAピラーが短くカットされているため、頭上がより広く感じるのです。Aピラーが短いことによる弊害は少なく、ルーフ形状が工夫されているため、閉じた状態で頭上空間が犠牲になることもありません。

また、オープンカーではルーフを格納するスペースが必要なため、トランクが犠牲になってしまいがち。ところが、120i カブリオではルーフを開けた状態でもトランク容量が260L確保されています。開口部がやや狭くなるため、大きな荷物の出し入れは難しくなりますが、ルーフを閉じれば305Lに拡大することができます。

街乗りよりロングドライブ向け 余裕ある大人の乗り物

試乗では初日に約10時間、連続で5時間以上走り続けました。距離にして約250km。途中で2回ほど渋滞にも捕まりましたが、疲労感はほとんどありませんでした。

その理由の1つは、コントロール性の高さでしょう。加速、減速、曲がる、止まる、といった一連の動作が思いのままで、ストレスを感じる場面が少なく疲労軽減につながりました。2つ目の理由としては、レザーシートの座り心地が挙げられます。座面は反発力が強めで、長時間座り続けてもお尻が痛くなりませんでした(個人差はあるでしょうが)。ホールド感も程よく、自然な姿勢を保つことができます。

視界を確保するための鏡面が湾曲したサイドミラーには、最後まで慣れなかった。

ただし、乗り心地はやや硬めです。装着しているタイヤはヨコハマのS.Driveで、サイズは205/50R17。ランフラットではありませんが、少し古かったためか、衝撃の吸収性はそれほど高くありませんでした。ODOメーターが約82,000kmを指している個体のため、経年による変化もあるかとは思いますが、サスペンションも硬めです。タイヤから伝わる衝撃がコイルスプリングを通り、1,560kgのボディ全体で吸収しているような印象を受けます。

また、6速ATは変速時に不自然なタイムラグがあります。特に、1速から2速へシフトアップする際には引っ張られるような感覚があり、発進・停止を繰り返す街中では気になってしまいました。エンジンの低速トルクは十分にあるので、少し惜しいなと感じるポイントです。

天気がいい日には、用事がなくてもドライブに出かけたくなる。

こうした点から、120i カブリオレは街乗りよりもロングドライブに適したクルマと言えるでしょう。高速走行では足回りの硬さが安定感を生み、変速の違和感も微々たるもの。屋根を開け、低回転でゆったり走り続ける気持ちよさは極上です。踏めばしっかり加速し、コーナリングではバランスを失うことなく綺麗に曲がる。スポーツカーよりも、いわゆるグランドツーリングカーに近いのではないでしょうか。

1シリーズとしては最初で最後のカブリオレという希少性の高さも、運転する喜びをかき立てる要素の1つとなるでしょう。

長所/短所

長所

  • 安定性が高くロングドライブも疲れない
  • Aピラーが短く開放感がある
  • 後部座席は大人がしっかり座れる広さ
  • 2.0L 直4は十分な動力性能を持っている

短所

  • キャビンの収納が全くと言っていいほどない
  • エアコンやシートヒーターが使いづらい
  • ステアリングは重い
  • 低速走行時の変速に違和感

補足事項

  • 車名:BMW 120i カブリオレ
  • 年式:2008年
  • 走行距離:約82,000km
  • 試乗日:12月上旬(晴れ)
  • 試乗した距離:292km
  • 燃費:11.7km/l(メーター数値)
林 汰久也

愛知県在住29歳/ハウスメーカーの営業を経て、IT系ベンチャーのメディア事業に参画。2020年よりフリーのライターとして活動開始/愛車遍歴はマツダ『RX-8』⇒シトロエン『C4』⇒スバル『フォレスター』(今ここ)/ゲームはPS派だが、最近ゲーミングPCが欲しいと思っている。

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