北欧のEVメーカーが考える「真の贅沢」とは:Polestarデザイナーインタビュー

コロナウイルスの対策に追われる世界においては、「Precept(プリセプト)」のような高級車のコンセプトを発表するのは簡単ではないでしょう。COVID-19がなければ、印象的なコンセプトカーPreceptは、ジュネーブ・モーターショーで華々しいデビューを飾ったはずです。北欧スウェーデンを拠点とするPolestar(ポールスター)は、この車に何を託したのか。Volvo傘下のブランドは、今何を考えているのか。開発者へのインタビューで伺いました。

ジュネーブ・モーターショーが中止されたにも関わらず、Polestarは業界のトレンドに逆らって、他社が世界中の工場の操業を停止させている中、中国で「Polestar 2」の生産を開始しました。

「今日では、ショーカーや華やかな業界の集まりよりも、もっと重要な話題がたくさんあります」と、PolestarのCEOであるThomas Ingenlath(トーマス・インゲンラス)氏は言います。「私たちは、すぐに普通の生活に戻れるようなふりはしたくありません。でも、私たちは皆、家に引きこもり、スクリーンの前で多くの時間を過ごし、社会的に孤立した状況に閉じ込められているのです」

感染症の流行は、Preceptにとって最悪のタイミングだったのかもしれませんが、Polestarのデザイン責任者Maximilian Missoni(マクシミリアン・ミッソーニ)氏は敗北を認めるつもりはないようです。今回、忙しい中Missoni氏に話を聞くことができました。PolestarをVolvoやGeelyと区別する上でなぜこのコンセプトが重要なのか、EVの時代に高級車は何を表現できるのか、なぜプライバシーが自動運転の最大の障害の1つになるのかなど、さまざまな観点から質問をぶつけています。

デザイン責任者 Missoni氏インタビュー

Thomas Ingenlath CEOによるPreceptの紹介。デザイナー集団のPolestarを率いる彼自身もデザイナー出身で、VWやVolvoを渡り歩いてきた経歴を持つ。

(以下、Missoni氏へのインタビューは、読みやすさと長さの調整のため加筆編集されています。)

――Preceptは、カテゴリー的にはおそらくスポーツセダンに最も近いモデルかと思いますが、現在の自動車業界ではSUVが主流です。このコンセプトカーは希望的観測に基づいたものでしょうか? また、そのテーマを小売り向けのカテゴリーに変えるにはどうすればよいのでしょうか?

つまり、なぜSUVではないのか、なぜSUVではなくセダンを作ったのかという質問ですね。これはかなり米国的な質問です(取材は米国記者によるもの)。もちろんSUVへの大きな流れは認識していますし、我々の次の車、「Polestar 3」はSUVになるでしょう。

しかし、私はこのボディスタイルが過去のものだとは思いません。Preceptは非常に曲線基調のファストバックですが、コンセプトカーとしては期待通りのものです。

世界中で行われていることを繰り返す必要はない

――Preceptには、大経ホイールのように伝統的な「ラグジュアリー」と「スポーツ」の要素を取り入れていますが、それ以外の要素も意図的に含まれていますね。ユーザーの多くが保守的な傾向にある高級車のカテゴリーでは、車の電動化はどのように進められるのでしょうか?

ご存知のように、電動化、すなわちサステナビリティ(持続可能性)への道のりは、誰もが強く求めていることです。今、皆が同時に「何とかしなきゃ」と危機感を抱いているように見えますが、それは全く理にかなっていますし、とても良いことです。Preceptが備えている最新技術の数々は、当初デザイナーに「センサーとレーダーを隠すんだ。いまいましい、LIDARもある」と疎まれたようなものです。

だから私たちは、これまで可能な限りそうした要素を隠そうとしてきました。しかし今こそ、デザイナーとしてのチャンスがあると思っています。私の手元には真っ白な画用紙があるからです。クロームメッキのモールやレザー、ウッドパネルなど、これまでと同じものを使うことができます。そうすれば、誰もが「これがプレミアムだ」と理解してくれるでしょう。それが「プレミアム」の意味です。

業界の風潮としては、あらゆるセンサー類を素敵なレザーの下に隠そうとします。ですが、私たちは反対のことをしました。私たちは、こうした社会の考え方を変えることをチームの励みにしようとしています。レーダー、LIDAR、超音波センサーを歓迎し、3Dプリントと亜麻ベースの複合素材を受け入れるべきです。もしそうしなかったら、せっかくの新しいブランドも無駄になっていたと思います。

なぜなら、世界中のメーカーですでに行われていることを、ロゴを変えて繰り返すだけだからです。人々は新しい車を見るとき、持続可能な素材が使われているかどうかなど、従来のチェックリストに照らし合わせるのでしょうが、少なくとも私たちはそれを新しいものに変えました。私はそんな人々にPreceptをライブで見てほしい。なぜなら、従来の高級車にあるようなトリックを何も施していないにもかかわらず、本当にプレミアムで豪華に見えるからです。

――現在、新しいEVはおおむね航続距離や速度で判断されているような風潮がありますが、Polestarはどのようにしてこうした価値観をリセットするのでしょうか? あるいは、リセットする必要があるのでしょうか

それらの判断基準は重要だと思います。航続距離や、時速0~60マイル(96km/h)の加速力といったスペックが日常生活においてどれほど重要なのか、議論する価値は十分にあるでしょう。しかし、パワートレインの性能の良し悪しは間違いなく重要であり、Polestarもドライビングダイナミクスの向上に熱心に取り組んでいます。

特に、日常の運転における喜びに重点を置いてきました。これらはクリアすべき課題であり、Polestarならすべてクリアできると思います。しかし、私たちが本当に望んでいるもの ―Thomas氏(CEO)と長い間一緒に仕事をしてきた中で得た望み ―それは、デザインの面で“新たな普遍性”を創造し、誰もが知っているブランドを確立することです。車のデザインのパラダイムを変えるのです。

これからはプライバシーこそ贅沢の極み

――私たちは今、明らかに奇妙な時代に生きています。コロナウイルスについてはあまり触れたくないのですが、私たちは今、突然リモートで働いたりするようになりました。つまり自宅で仕事をするという、以前までになかった選択肢を今後は選べるようになる転換点にいると思います。交通機関や車への需要にどのような影響があると思いますか?

これを乗り越えれば、私たちは社会的存在として慣れ親しんできた通常の生活にかなり戻ると思います。私は、例えば中国のどこかでミーティングをするためだけに、いつも世界中を飛び回っているのですが……これは正直なところ、かなり奇妙に感じています。我々PolestarはEVブランドであり、持続可能性に焦点を当てているので、移動にはかなり慎重にならざるを得ません。社員の誰もが自分たちの足跡を意識しなければならず、そもそもどれだけ移動する必要があるのか、ということを常に考えてきました。

しかし、自動車が可能な限り持続可能な方法で設計・製造されているのであれば、この安全な空間を提供する乗り物は、大都市を中心にルネッサンスを迎えているのかもしれません。車は、数少ないプライバシー空間の1つです。1人で、または家族と一緒に乗っているとき、いつものようにリラックスして振る舞うことができます。ですので、コロナウイルスが自動車にどれほど大きな影響を与えるのかは分かりませんし、今お話しすることはできません。しかし、社会そのものには間違いなく影響を与えるでしょう。

――車が孤立していることでラグジュアリーな空間になっているという考えは、外観ではなく車内空間の質を重視するという点で興味深いですね。デザイナーとしての視点はどのように変わりそうですか?

まず第一に、フォームファクターの観点から考えると、電動化の大きな課題は航続距離だと思います。EVでの生活に慣れていない人からすれば、航続距離の短さは非常に大きな不安要素だと思います。その点については、エアロダイナミクスが大きな役割を果たしてくれます。昨今、車の空力性能は大きく向上しており、私も日々実感しています。

しかし、あなたの言う通り、車内空間については、2つの理由から非常に重要な課題となっています。理由の1つは、自動運転への移行です。車が完全に自律し、都市で自動運転車だけが走り回るようになったとしたら、デザインが劇的に変わる可能性があります。電動化が車のデザインにどのような影響を与えるのか、よく聞かれます。しかし、車の安全性(能動的・受動的安全性)は従来とほとんど似たようなものですから、それほど大きな影響はないでしょう。

逆を言えば、既存のデザインから大きく外れることもできません。衝突安全性のために必要な部分や、ドライバーが目で見て車をコントロールできるようにするための規制などが多くあります。しかし、そうした束縛をいったん排除すれば、ボディースタイルは全く新しいストーリーを紡ぎだすことでしょう。

車のプライバシーに関しては、非常に興味深い側面がもう1つあります。車はプライベートな空間だからこそ、上質たり得るのです。無人タクシーなどの配車システムでは、管理者がいつでもボタンを押して、車の中で何が起きているかをチェックできるようにする必要があります。だから完全にプライベートにはなりません。プライバシーこそ、最も贅沢な商品になるでしょう。

人々は口々に「自動運転車が普及したら、自家用車に取って代わるのだろうか?」と言います。コストパフォーマンスが高い移動手段だからです。しかし、そこにプライバシーはありません。あなたが望む会話は決してできません。鼻をほじることも。したがって、プライバシーは全く新しいタイプの贅沢になりつつあるのです。

Polestarはスピンオフでもアドオンでもない

――確かにそうかもしれませんが、Preceptは車内にもセンサーを設置しています。センサーは車外に設置され、外を向いているという一般的な考えから、内側に向いて私たちを監視しているという考えに変わってきています。

私たちは常に、テクノロジーをいかに車へ盛り込むかを考えています。Volvoの価値観とは異なるでしょう。なぜならVolvoというブランドは、ドライバーをサポートしたい、しかしその意思を前面に押し出すことはしたくない、と考えているからです。ご存知の通り、Volvo車には必要なものが目立たない形ですべて揃っています。スカンジナビアならではのコンセプトです。

Polestarはテクノロジーを誇示することに重点を置いています。使われている技術はVolvoと同じかもしれませんが、Polestarの場合、どんな機能がどこに備わっているのか、デザインを通じてドライバーに伝えています。サーフェスの背後に隠れているわけではありません。「見て! 私はアイトラッキング、とても複雑でクールな機能だよ!」とでも言うようにね。

――Preceptに盛り込む要素は、どのようにして優先順位を付けたのですか?

シンプルでわかりやすい環境を作り、情報をレイヤーごとに表示することがポイントです。デザイナーとしての私たちの仕事はそこにあると思います。エンジニアからすれば、最初のレイヤーにできるだけ多くのシステムを配置することを好むでしょう。でも、私に言わせればそれは誤りです。

この種のヒエラルキーは、私たちが常にコントロールしようとしているものです。ミニマリズムなデザインでありながら、必要なものがすべてが揃っているという状態がベストです。

なかでも、アイトラッキングは興味深い例でした。エンジニアとよく話し合ったからです。当初、ドライバーが視線をディスプレイに合わせたとき、その動きに合わせて情報を大きく表示するという意見が主流でした。しかし、実際には逆の結果となりました。

アイトラッキングにより視線の動きを捉え、ディスプレイを見るときは情報を多く表示する。視線を戻すと、必要な情報だけが大きく表示されるという仕組み。

視線をディスプレイに合わせたとき、情報を細かく表示するようにしたのです。一般的には、大きく表示することにメリットがあると思われるかもしれません。しかし、実際に視線を合わせたときには、サイズに関わらず情報を読み取ることができるため、大きくても役に立ちません。逆にサイズを縮小することで、より詳細な情報を追加できます。つまり私が言いたいのは、ディスプレイを見るとその表示がポップアップし、その一瞬の間に必要な情報が得られるということです。視線を道路に戻した時には、「私を見て」と言わんばかりのテキストは必要ありません。できるだけ大きく、シンプルにしたいのです。これは、一般的な考え方とは真逆かもしれませんね。

――最後の質問です。未発表の製品について話すことができないのは承知していますが、Preceptのコンセプトにおいて、将来の市販モデルに期待できる最もエキサイティングな要素は何ですか?

コンセプトに取り入れた機能の多くは、将来の量産車に何らかの形で実現される予定です。しかし、私にとって最もエキサイティングなことは、ブランドとしてPolestarが存続することをPreceptで明確にしたということです。

PolestarはVolvoのスピンオフでもアドオンでもありません。Polestarは完全独自の高級EVブランドです。些細なことのように聞こえるかもしれませんが、デザイナーとチームにとって、この種の解放を手に入れ、人々にオリジナルのブランドであると認めてもらうことは、非常に大きな一歩なのです。

そして今まさに、私たちはその一歩を踏み出したばかりで、フィードバックをチェックしているところです。今のところ、フィードバックはとても良かったと思います。人々は、Polestarが(吉利およびVolvoの率いる)グループの一部であると認識していますが、独自のキャラクター性を有しているのです。Preceptにはさまざまな表現が数多く含まれていることはご存知ですよね。これは私たちにとって大きな一歩であり、間違いなく最もエキサイティングなことです。

林 汰久也

愛知県在住 27歳。ハウスメーカーの営業を経て、IT企業のメディア事業に参画。記事制作ディレクターとして店舗紹介記事などの制作に携わる。現在は退職し、フリーのライターとして活動中。

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