スポーツカーの概念を変えたSUV:2021年モデル Mercedes-AMG「GLE 63 S/GLS 63」レビュー

これまで走りを楽しむ車と言えばスポーツカーが定番でしたが、その寿命はあとわずかです。時間と流行はノスタルジアを無視し、冷淡にも変化していきます。昨今のユーザーは、スポーティな車を求める場合、2021年モデルのMercedes-AMG「GLE 63 S」「GLS 63」のようなスーパーSUVを選ぶでしょう。603馬力の走りを楽しむ彼らを、本当に責めることができるのでしょうか?

SUVの過激な進化

言わずもがな、AMGはSUVに精通しています。アメリカでの売上の約50%がこのカテゴリーに属するモデルで、エンジニアやプロダクトプランナーにとっても、SUVへの投資は優先的に行うべき仕事なのでしょう。

その結果として、ドイツ・シュトゥットガルトから生まれたのが、物理の法則を無視するかのようなファミリーカーです。率直に言って、GLEおよびGLSのサイズ、形状、重量は、AMGのようなハイパフォーマンスブランドのイメージにそぐわないところがあります。AMGのパフォーマンスを実現するには特別なドライブトレインが必要ですが、この2台にはそれがしっかり備わっています。

具体的には、MercedesのEQ Boostシステムを組み合わせた4.0LのV8 biturbo(ツインターボ)エンジンです。AMGの「one man, one engine-ひとりのマイスターがひとつのエンジンを―」という理念に従って組み立てられており、603馬力、627lb-ft(約850Nm)のトルクを発揮。3列シート仕様のGLS 63の場合、4.1秒で時速0-60マイル(0~96km/h)を達成します。少し軽いGLE 63 Sは、それを3.7秒というちょっと信じがたいタイムにまで短縮してしまいます。

マッスルカーを圧倒するほどのパワーを有する“ファミリー向けの高級SUV”が本当に必要なのかどうかという疑問は、ひとまず横に置いておいてください。スポーツクーペが存在するに値する理由を問うことができないのと同じです。代わりに、絶え間なく充電される48Vバッテリーと電動スターター/ジェネレーターから最大21馬力・184lb-ft(約250Nm)のトルクを発生する、賢いEQブーストシステムに注目してください。

そうなると、道路上で一番心配なのは、その膨大なパワーをどうやってアスファルトに伝えるのかということです。パワーが強すぎると、タイヤが空転してスピンを起こすのではないか。しかし、その心配は杞憂に終わるでしょう。全輪駆動システム AMG 4MATIC+ が標準装備されており、ライドコントロールエアサスペンションやアクティブロールマネジメントも備わっています。V8 エンジンでさえ、電子制御マウントを介して取り付けられており、駆動モードに応じて剛性を調整することができるのです。

その結果、アーミン(オコジョの毛皮)で覆われた絨毯のように柔らかく、しなやかで、全体的に高級感があり、それでいて往年のスポーツカーのような硬さ(剛性の高さ)も備えた車になりました。GLE 63 SやGLS 63は着座位置が高く、良好な視界が確保されているため街中での取り回しも難しくありません。

実用性×快適性×走行性能

コンフォートモードでは、どちらのSUVもゆったりと適度に揺れます。エアサスペンションは、あらゆる路面に対応して快適な乗り心地を提供してくれます。きついコーナーを曲がるときは多少の揺れこそあるものの、バスのように乗り物酔いを誘発するほどのうねりは生じません。

しかし、ステアリングについているドライブモードのダイヤルを操作すると、まったく違う車になります。AWDシステムは、デフォルトでは50/50の前後トルク配分を維持していますが、路面状況や運転スタイルによっては、V8 エンジンから生じるパワーのうち最大100%を後輪に送ることができます。また、後輪左右のパワー配分を調整する電子式リアディファレンシャルも備えているので、タイヤが常に路面をしっかりつかみながら走れるのです。

コーナーでもその効果を十分に感じられるでしょうが、急ブレーキをかけるとさらに顕著に現れます。ただ、やはりこれだけの大きさのSUVで、ペダルを床まで踏みこんで急ブレーキをかけることには不安があるでしょう。ノーズダイブを起こしてリアが浮かび上がり、乗員が悲鳴を上げるようなことはないのか。

この2台のAMGでは、その心配はいりません。後輪に備わるディナープレートサイズの大経ディスクブレーキが、車体を確実かつ短い制動距離で停止させます。トリックサスペンション、ダンパー、ロールスタビライザーにより、すべてがコントロール感を持って行われます。

もちろん、従来のスポーツクーペやコンバーチブルの方が、蛇行する山道ではGLE 63 SやGLS 63よりも優れていることを否定つもりはありません。どれだけSUVの性能が上がろうとも、そうした低車高、低重心(そして非実用的)な車ならではの楽しさが消えてなくなることはないでしょう。少し語弊のある表現ですが、Mercedes-AMGは、SUVならではの実用性にパフォーマンスを付け加えただけです。ただ、そのパフォーマンスは、まるで物理の法則にとらわれていないかのような素晴らしいものなのです。

スポーツクーペやコンバーチブルには、いざというときのために4人分のスペースを確保したモデルも数多く存在しますが、後部座席に追いやられた人たちは不満を漏らしそうです。それとは対照的に、Mercedesの内装を嘆かれることはないでしょう。通常のGLEとGLSの洗練されたデザインに、AMGのスポーティなテイストが加わります。Mercedesの優れたインフォテインメントシステム MBUXも当然ながら搭載。可能なものはすべて電動化されているため、シートポジションを調節したり、ラゲッジスペースを確保するために後部座席を移動させたりする作業も簡単です。

新たな時代の到来

2021年モデル AMG GLS 63の北米仕様の最低価格は132,100ドル(約1,450万円)です。同じく2021年モデルのAMG GLE63 Sは113,950ドル(約1,250万円)からと比較的お手頃ですが、巨大で華麗な23インチのモノブロック・ホイールを手に入れるにはもう少し予算をかける必要があります。このホイールはブラックとシルバーの2色展開ですが、最寄りのMercedesディーラーに持ち込んで追加料金を払えば、別のカラーリングで仕上げてくれと頼むこともできるようです。

家族全員でスポーツ走行を楽しめる車だ。

ホイールに遊び心のある選択肢を持たせるのはいいことだと思います。車に詳しくない大半の人からすると、この2台のフルサイズSUVを外から眺めただけでは、内に秘めたるパフォーマンスにはおそらく気づかないでしょう。良くも悪くも、AMGのドレスアップは(どちらかと言えば)控えめです。

他の車よりも馬力があり、なおかつ家族連れで乗れるような車を運転する機会はそうそうありません。あなたの好きな組み合わせを選び、ドイツ製のハイパフォーマンスSUVを心ゆくまで味わってください。

長年に渡り、走る楽しさをドライバーに提供してきたのはスポーツカーでした。羨望のまなざしを集めてきたのもスポーツカーです。今、とても大きな変化の波が訪れています。

新しいパフォーマンスカーの時代へようこそ。より多くの人と、走る楽しさを共有しよう。

林 汰久也

愛知県在住 28歳。ハウスメーカーの営業を経て、ITベンチャー企業のメディア事業に参画。現在は退職し、フリーのライターとして活動中。マツダRX-8、シトロエンC4を乗り継ぎ、現在は2010年式スバル フォレスターに落ち着く。

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