実現しなかったエントリーモデルのBugatti「Atlantic」:EVモデルの計画も

Bugatti「Atlantic(アトランティック)」のことを知っている人はほとんどいないでしょう。1930年代の伝説の名車「Type 57 SC Atlantic」にちなんで名付けられたこのモデルは、Bugatti GTの “エントリーレベル”として、「Veyron(ヴェイロン)」や「Chiron(シロン)」と並んで販売されることになっていました。

昨年、Bugatti設立110周年を祝ってデビューした超高級車「La Voiture Noire(ラ・ボワチュール・ノワール)」は、Type 57 SC Atlanticの正統な後継車とされています。特にボンネットからトランクまで走る大胆なセンターラインは、オリジナルモデルをモチーフとしたデザインです。1,670万ユーロ(約20億円)という車両価格も、La Voiture Noireが血統書付きのモデルであることを物語っているでしょう。

この「Atlantic(アトランティック)」は、世界で最も美しいとされる「Type 57」のデザイン要素を多く引き継いでいる。

しかし、この車が真の後継車であるという位置づけには疑問が残ります。なぜなら、実際にはこのBugatti Atlanticこそ、自動車デザイナーJean Bugatti(ジャン・ブガッティ)が遺した名車の真の後継となるはずだったからです。1936年から1938年の間に製造されたType 57 SC Atlanticは4台しかなく、現存する3台すべてがダイヤモンドや金よりも価値があると考えられています。

この記事を書いている時点で、最後の1台はまだ見つかっていませんが、Bugatti氏の作品で最も大切なモデルと言えます。当時、Bugatti Type 57 SC Atlanticは、世界で最も美しく、最も速い車と考えられていました。本質的には1930年代のスーパーカーであり、時代をはるかにリードしています。もし最後の1台が発見されれば、オークションで簡単に1億1300万ドル(約124億円)以上の値をつけられるはずです。

一方、新しいAtlanticには、La Voiture Noireでは決して表現できないものが備わっています。Atlanticは“エントリーモデル”のBugattiであるはずだったにもかかわらず、オリジナルのType 57が持つ素晴らしい要素をすべて備えています。

Bugattiの歴史を象徴するようなモデルでありながら、リーズナブルな価格で販売される計画だった。

リアにW16エンジンを搭載したLa Voiture Noireとは異なり、AtlanticはType 57と同様にフロントミッドにエンジンを配置。ちょっとした荷物を積むのに十分なスペースを備えた2+2です。スーパーカーらしいバタフライドアも装備しています。言い換えれば、この車はType 57 SCの現代版であり、生産モデルの登場が否定されたことは自動車業界にとって残念な出来事であると言わざるを得ません。

実際、BugattiはChironを補完する2つの新しいクーペ、Atlanticと「Veyron Barchetta(ヴェイロン・バルケッタ)」をリリースする計画を立てていました。Veyron Barchettaは、ラップアラウンドのウィンドウを備えたスピードスターとして開発されたモデルです。一方のAtlanticはChironの半額で販売されることになっており、200万ドル以下のBugattiを求める中級エリートにとっては良いニュースだったはずです。

Atlanticと同時期に計画されていたVeyron Barchetta(ヴェイロン・バルケッタ)も、お蔵入りとなってしまった。

不幸にも、2015年に発覚したVolks Wagenグループのディーゼル不正問題によって、2台は終止符を打たれてしまいました(Bugatti Automobiles SASはVWグループ傘下)。Atlanticがここしばらく見てきた中で最もユニークなBugattiであることを考えると、非常に残念です。バタフライドアのように特殊なドアを持つモデルは、1991年の「EB110」を最後に現れていません(EB110はシザードア)。

Atlantiはカーボン製モノコック構造を採用し、50:50の前後重量配分を実現。前輪の車軸より後ろに小型のV8エンジンを搭載したフロントミッドシップで、トランスミッションはリアに配置されています。エンジンがフロントに搭載されているため、Atlanticは長いボンネットとショートオーバーハング、そしてマッスルカーのようなスタイルを有します。VWとの共有部品も多く使われていますが、車を見ただけではわからないでしょう。

EVモデルは同じVWグループのPorsche「Taycan」の開発チームと共同で開発する予定だったようだ。

しかし、Atlanticの本当に興味深い点は、パワートレインです。2015年当時、BugattiはガソリンモデルとEVモデルの両方を販売しようとしていました。EVの場合、4つの電気モーターと大きなバッテリーパックを備えます。もしAtlanticが量産化に成功していたら、Bugattiは全電動スーパーカーも生産するメーカーとなっていたかもしれません。

人生におけるあらゆることと同じように、セカンドチャンスに遅すぎることはありません。すべての自動車メーカーが電動化に向けて努力している現在、AtlanticはBugattiにとって、EV(またはハイブリッド)スーパーカーの理想的なスターティングポイントとなっています。リーズナブルかつブランド初のEVスーパーカーAtlanticがデビューしたら、と考えずにはいられません。

林 汰久也

愛知県在住 28歳。ハウスメーカーの営業を経て、ITベンチャー企業のメディア事業に参画。現在は退職し、フリーのライターとして活動中。マツダRX-8、シトロエンC4を乗り継ぎ、現在は2010年式スバル フォレスターに落ち着く。

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