“前菜”だけど満足感高め。2020年モデル Cadillac「CT5」と「CT5-V」詳細レビュー

SUVが新車販売台数を独占しようとしている昨今、高級セダンを新たに発売するというのは的外れとも言えますが、Cadillacは2020年モデルの「CT5」に見込み客が十分についていると主張するでしょう。いくらSUVが売れているとはいえ、車高の高い車を嫌う人も、単なるセダン好きの人もいるので、古き良き4ドアセダンの存在価値はそれなりにあるはずです。Cadillacはそんな見込み客にアプローチを試みていますが、新しいCT5、そしてよりホットな「CT5-V」は、彼らの期待に応えられるのでしょうか?

2台のガソリンエンジンモデル、でもEVは?

Cadillac CT5にはふたつのエンジン設定があります。エントリーグレードは2.0Lのターボチャージャー付き4気筒エンジンで、237hp、258lb-ft(350Nm)のトルクがあります。上級グレードには3.0Lのターボチャージャー付きV6エンジンを搭載し、最高出力335hp、最大トルク400lb-ft(540Nm)を発揮します。CT5-Vでは、さらに

どちらも10段変速のオートマチックトランスミッションと組み合わせており、後輪駆動か全輪駆動かを選べます。Caddyは、マクファーソン式のフロントサスペンションと5リンク独立式リアサスペンションに加え、可変出力機構を備えた電動パワーステアリングを採用しています。Magnetic Ride Controlは、CT5-Vの最上級グレードまでステップアップした場合にのみ提供されます。

この2台に共通しているのは、どんな電動パワートレインも採用していないことです。Cadillacは、GMが計画する次世代EV戦略の先陣を切る役割に立っていますが、今のところCT5のラインアップにはマイルドハイブリッドすらなく、プラグインなど言うまでもありません。プラグインハイブリッド・システムは「CT6」ではスムーズに導入されたのですが、CT5に設定されていないのは残念なことです。

1つのモデルに2つのファミリー

最近のCadillacの他のモデルと同様に、2020年モデルのCT5はふたつの構成に分かれています。37,890ドル(約418万円)のCT5 Luxury RWDを皮切りに、Premium LuxurySportのラインに分かれています。2.0Lか3.0LのCT5 Premium Luxury、または2.0LのSportを選ぶことができます。最上級グレードは、48,690ドル(約538万円)のCT5-V(3.0L仕様)です。

後輪駆動が標準で、全輪駆動は2,600ドル(約28万円)のオプション設定となっています。Cadillacはまた、Premium LuxuryとSportに追加できるプラチナパッケージも用意しています。

Premium LuxurySportの違いは、ネーミングだけではありません。ボディワークやスタイリングの違い、専用ホイール、インテリアの配色や素材も変えています。「CT5 Sport」はアグレッシブな見た目をしていますが、「CT5 Premium Luxury」 はより古典的なスポーツセダンとして洗練されています。

CT5 Luxuryは、フロントとリアにLEDライトを標準装備し、車内灯にもLEDを採用しています。歩行者検知機能付きの自動緊急ブレーキ、前方衝突警報を備え、Premium LuxuryまたはSportではブラインドスポットモニターや車線逸脱警報も追加されます。また、8インチのクラスタディスプレイ、ヘッドアップディスプレイ、レーンキープアシスト、オートヘッドライト、先行車との車間距離を表示するフォワードディスタンスインジケーターを搭載した「Driver Awareness Plus」パッケージも追加可能です。

同セグメントのライバルに負けず劣らずの質感を備えている。

Cadillac User Experience」(Cadillacの最新インフォテインメントシステムのあまり知られていない名称)は、全車に標準となっています。10インチの大画面タッチスクリーン、Apple CarPlay、Android Auto(残念ながらワイヤレスではなく有線のみ)、NFC、Bluetooth、USBポートを装備。4G WiFiホットスポットも標準ですが、スマートフォンのワイヤレス充電は、Luxuryや上級グレードを選ばないとついてきません。

プラチナパッケージを追加すると、シートにパーフォレーション(穴あけ加工)とパイピングを備えた特殊なセミアニリンレザーを使用した、ヒーター・ベンチレーター付きのマッサージシートになります。レザーのアームレストとセンターコンソールも付属。また、マグネシウム製パドルシフトを備えた太めのステアリングホイール、金属製ペダル、カーボンファイバー製の内装パネルと、高級感をより高める仕上げとなります。

太めのステアリングは握りやすく、質感も高い。ダッシュボード周りの樹脂パーツが安っぽく見えるのが少しもったいない。

内装とシステムに大幅な改善

内装の質感は上々ですが、やや操作しづらい点も否めません。エアコンの温度などを調整するために、タッチスクリーンをあれこれいじるのではなく、物理的なスイッチを押して操作できるのは美点です。ただ、他のメーカーは、目線を移動させなくとも指先の感覚で操作しやすくするために、スイッチ類の配置をうまく組み合わせています。ところが、Cadillacはドライブモードの切り替えスイッチのように、頻繁に使用するコントロールのいくつかを扱いにくい場所に隠す(探す必要がある)という、不可解な設計を採用しています。

金属製のスピーカーグリルやレザーシートなど、多くの装飾品は実に快適です。GMの工具箱から直接出てきたかのようなスイッチ類の操作感覚や、チープな樹脂製パーツは気になるものの、これらマイナスポイントはその他の美点で相殺できています。内装のカラーリングは、LuxuryかSportのどちらを選ぶかによって異なります。Cadillacは、車内に独特の個性を与えるため、組み合わせを工夫したと述べています。

インフォテインメントシステムの進化は著しい。ストレスとはほぼ無縁になった。

新しいインフォテインメントシステムは、従来の扱いにくいCUEシステムを大幅に改善したものです。レイアウトが変更され、操作がより直感的になりました。Cadillacは、タッチ、スクロール、ダイヤルやスティック、ステアリングのスイッチ、音声コントロールなど、さまざまなアプローチで操作できるようになっています。とはいえ、ほとんどのドライバーは、早い段階でお気に入りの操作方法を選んで、それ以外は無視するのではないかと思います。

Caddyの大画面志向がメーター周りにも及んでいればよかったのですが、それは叶いませんでした。大型の8インチディスプレイを装備していますが、大きなアナログメーターに挟まれる形で配置されており、競合他社がデジタルメーターを採用している昨今においては、やや時代遅れに感じられます。

おおむね上質ではあるが、細かい部分でアメ車らしい“作りの粗さ”が見られる。そこも含めて楽しめるという人なら最適だ。

CadillacはCT5の長いホイールベースを効果的に利用し、後席の広さを確保しています。足元とヘッドクリアランスはどちらも素晴らしく、後席のドアには切り欠きが付いていて、車内に乗り込むときに頭に少し余裕ができます。ただ、高級感や細部の作りこみは甘く、大味な印象は以前とあまり変わっていません。

近い将来、CT5はCadillacの半自動運転システム「Super Cruise」を搭載するモデルのひとつとなるでしょう。このシステムがオプションとして提供されるのは今年後半になりますが、待つ価値はあると思います。Super Cruiseは、米国とカナダの高速道路(約32万km)の交通状況に対応し、車線を維持するだけでなく、ステアリングコラムに取り付けられたカメラを使用して、ドライバーが前方に注意を払っているかどうかを監視します。監視義務さえ怠らなければ、ドライバーはハンドルから手を離すことができます。既存の運転支援システムとは大きく異なるもので、一度試してしまえば、もう他のシステムには戻れないでしょう。

ロングドライブ向け Cadillac CT5

2ターボ付きV6モデルのCT5 Premium Luxuryと、Magnetic Ride Controlを搭載したCT5-V。この両モデルに試乗し、乗り味を確かめました。まずは、上品な高級セダンという佇まいのCT5から。

はじめにお伝えすると、CT5の乗り心地は悪くありません。エンジンは若干パワー不足を感じるものの、Cadillacの開発者たちはロードノイズや風切り音の低減に対し素晴らしい成果を挙げました。約330Lのトランクは小さく感じますが、このスペースを利用して遮音性を高めていることは明らかです。セダンが持つトランクスペースは、地面から拾うロードノイズなどを遮断するのにとても有効なのです。このCT5はロングドライブに適した車と言えます。

ドアハンドルにはCadillacのロゴがこっそり刻印されている。

Cadillacの最新デザインとしては、数年前に発表された「Escala Concept」に見られるように、高級感だけでなくアグレッシブな印象も作り出すことができます。LuxuryであろうとSportであろうと、大型のフロントグリルと切れのあるヘッドライトはCadillacらしさがあり、思わず目を奪われます。CT5のCピラーの華やかな形状については意見が分かれるでしょうが、全体的なスタイルとボンネットのパワーバルジは、車を筋肉質で自信に満ちたものに見せています。

今回はエントリーグレードの2.0Lエンジンはテストできなかったので、Caddyの直列4気筒がどのような走りを見せてくれるかは分かりません。

過激なホットセダン Cadillac CT5-V

Cadillacの「V」シリーズはここ数年、スピード感のあるセダンとして人気を集めています。同社はより多くのVブランドを手ごろな価格で展開しようとしており、たとえば、CT5-Vだけでなく、CT4-Vも今後販売される予定です。Vの過激さは、その見た目だけに留まりません。

「V」モデルでは、マフラーやアンダースポイラーの形状が変わる。

CT5-Vは、最高出力360hp、最大トルク405lb-ft(550Nm)を発揮する3.0Lのターボ付きV6エンジンを搭載。10速AT、電動リミテッドスリップリアディファレンシャル、Magnetic Ride Control 4.0を備えます。これらとPerformance Traction Management、およびドライブモードシステムと組み合わせることで、快適な環境でもスポーツ環境でも、最適な乗り心地を実現するためにダンパーを自動調整します。

おそらく最も喜ばれるのは、オプションリストに全輪駆動(AWD)が追加されたことでしょう。CT5-Vは標準では後輪駆動(RWD)です。かつて、「CTS-V」が640hpもの大馬力を後輪だけで支えきれず、リアを盛大に振りながら走っていたことを懐かしく思う人もいるかもしれません。ただ、こうした後輪駆動×大排気量エンジンの魅力は、実際には障害になることも多々あります。スピンアウトを恐れて本領を発揮できないのであれば、高出力のパワーユニットには本当に価値があるのでしょうか。

ボンネットの膨らむ(パワーバルジ)のおかげで、往年のマッスルカーのような雰囲気がある。

CT5-Vはそこまで強力ではありませんが、使いやすいモデルです。公道を走り、曲がりくねった山道をくねくねと進むと、このAWDモデルは有能なパートナーであることがわかります。V6は吹け上がりがよく、ターボラグも最小限で、パワーがタイヤのグリップを上回ることはありません。Cadillacのブレーキ・バイワイヤ・システムは通常の使用範囲では違和感なく働きますが、ペダルを深さいっぱいまで踏み込むと制御が難しくなります。

RWDとAWDの走りの違いは明らかです。前者には遊び心があり、コーナーを攻める際には、積極的にリアが滑ります。AWDはそうした動きを抑えてくれるので、より安定感のある走りを味わえます。

グリルがメッシュ状になり、バンパーデザインもよりアグレッシブになっている。

タイムアタックに挑戦するならAWDが適任でしょうが、運転に慣れてきて楽しさを求めるならRWDの方がいいでしょう。問題は、サーキット走行専用にCT5-Vを買う人はいないだろうということです。一般の道路では、安定感のあるAWDの方がより扱いやすいはずで、凍った路面や雪の中を運転しなければならない場合には言わずもがなです。

360hpと405lb-ft(550Nm)のパワーでは物足りなかったとしても、心配する必要はありません。Cadillacには、よりハイパワーなVモデルを展開する計画があります。CT5-Vで満足できないあなたは、もうしばらくお待ちを。

Cadillac CT5は魅力的な「前菜」

セダンを求めるユーザーは未だ多くいるにもかかわらず、この分野におけるCadillacの戦略はここ数年、さまよい続けているように見えます。CT6は鳴り物入りで発売されましたが、好意的な自動車評論家の反応も売上には貢献しませんでした。同社が乗用車へのコミットメントを表明したにもかかわらず、SUV市場のあらゆるニッチを別のモデルで満たすという、一見的外れな戦略は、Caddyの心がもはやそこにないのではないかという疑問を残しました。

2020年モデルのCT5は、上位モデルのCT6よりも印象的で、ATSやCTSに比べてもずっと先進的ですが、サイズはラインナップ全体の中間にあたります。競争力のある価格設定―ドイツ製のライバルより数千ドル安くすることもある―も魅力的です。一方、「CT5-V」のようなスポーティーなモデルは、これまでの「V-Sport」に比べて、全体的なラインナップにうまく統合されているように感じられ、エントリーグレードからパフォーマンスグレードまでの道筋(住み分け)がより明確に示されています。

ただ、やはりライバルの存在感は脅威です。Audi、BMW、Mercedesの各モデルはCadillacより高価ですが、その分、車内デザインやテクノロジーのどこにお金が使われているのかがよく分かります。走りもデザインも、「A4」や「3」シリーズの方が良いと感じる人も多いでしょう。まだ磨きをかけなければいけない箇所は多く残されています。

EVモデルの発表も待たれる。

もちろん明るい話題もあります。CadillacはCT5で、全く新しいアーキテクチャーを採用しています。そのため、CT6にはない車線変更機能付きの最新のSuper Cruiseが搭載されます。システムの無線アップデートに対応することで、ステアリング、ブレーキ、エンジンレスポンスなどの微調整もしやすく、またインフォテインメントシステムもより使いやすくなるでしょう。Teslaのように、一晩ガレージに車を置いただけであらゆる変更が行われるとは思いませんが、これは大きな進化と言えます。

積極的な価格設定と相まって、2020年モデルのCT5には多くの魅力があります。乗り心地の良さ、ドライブフィーリング、そしてSuper Cruiseという画期的な運転支援システム(日本の高速道路に対応すれば言うことなし)。多少チープな部分はあるものの、そこは価格を見れば十分納得できるでしょう。前述の通り、CadillacはVモデルをはじめ多くのモデル展開を控えています。つまり、CT5およびCT5-Vは、Cadillacの魅力的な前菜というわけですが、これだけでもお腹いっぱいになりそうです。

林 汰久也

愛知県在住 28歳。ハウスメーカーの営業を経て、ITベンチャー企業のメディア事業に参画。現在は退職し、フリーのライターとして活動中。マツダRX-8、シトロエンC4を乗り継ぎ、現在は2010年式スバル フォレスターに落ち着く。

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