新型Cadillac「Escalade」発表:進化を遂げたSUV、しかし魅力は見えてこない

高級SUVの元祖である「Escalade」は、Cadillacにとって「黄金のガチョウ」と言えるかもしれません。トヨタをはじめとする各メーカーは、ドイツの主要車種から北米ユーザーの目をそらす「アメリカン・ラグジュアリー」のビジョンを売り込もうと懸命になっているものの、苦戦が続いています。一方、Cadillac Escaladeの需要は拡大しており、中古市場も含めて堅調に推移していると言えます。Cadillacが先日発表した新型Escaladeは、最新技術(世界初の「アレ」も搭載)をふんだんに採用しているものの、同時にいくつかの疑問も抱えています。

セレブリティ御用達のSUV「Escalade」。その進化のほどはいかに。

ライバルであるLincolnの新型Navigatorは高い評価を得ており、Escaladeが長年支配してきた分野において魅力的な代替案となっています。Cadillacは危機感を抱いたに違いありません。

Escaladeに独特の個性を与えているものを、モデルチェンジでうっかり薄めることで求心力を削ぎ、黄金のガチョウを手放すことになってしまいます。メーカーを問わず、歴史のあるモデルにはこの種の悩みが付きまといます。このバランスを取るのは難しく、Cadillacがうまくやっているとは決して言い難いところがあります。

細部の作りこみは好印象。大味な印象が強いアメ車デザインも、モデルチェンジのたびに進化している。

重厚感のある垢ぬけたエクステリア

先代のEscaladeは2013年に公開され、独特の存在感が人気を博しました。日本の路上で見かけることもそう珍しくはありません。巨大なクロームメッキのグリルの両側にはヘッドランプがそびえ立っており、正直なところ、アールデコとブルータリズムの間を揺れ動くような、方向性が定まっていないデザインでした。しかし、どういうわけかユーザーの受けは良かったようです。

2021年モデルのEscaladeに話を移すと、これははるかに控えめな内容と言えます。グリルは未だ大きいままですが、ヘッドランプは横置きのスリムな形状になりました。Cadillacの統一デザインである垂直のLEDランプは、地面に杭を打つような安定感を与えています。

どこか垢ぬけない先代とは打って変わり、精悍で大人っぽい顔つきになった。奇抜さはないが安定感がある。

側面のホイールアーチは、膨らみをあえて持たせず、彫刻刀で少し掘り込んだようなデザインが施されています。側面後方のDピラーが完全にブラックアウトされているため、ボディの長さがどこまでも続くような錯覚を覚えます。実際、2021年モデルは先代よりも全長が長くなっています。標準装備の22インチホイールでさえ、普通の車であれば誰の基準から見ても巨大なはずなのに、不思議と小さく見えてしまうほどです。

無味乾燥なインテリアを刷新 曲面OLEDパネル採用

2021年モデルのEscaladeの注目ポイントはインテリアにあります。これまでのモデルでは、平凡なシートが3列に並び、光沢のある黒いダッシュボードは指紋やほこりが目立ちやすいプラスチック製でした。インストゥルメント系も不足していたわけではありませんが、ライバルのNavigatorに比べるとタッチスクリーンが小さいという欠点がありました。

内装の高級感や先進性は注目に値する。38インチ超の湾曲したスクリーンエリアは世界初採用だ。

新しいEscaladeではすべてが変わります。車の基本となるプラットフォームの変更により、車内空間が拡大。3列目のシートでは足元の余裕が約25cmも増えました。ほとんどの自動車メーカーが数mm単位のわずかなスペースの追加を喜んでいることを考えると、大幅な改善と言えます。ダッシュボードもウワウワになりました。

Cadillacは、この新型Escaladeに、自動車業界では世界初となる38インチの曲面OLEDパネルを採用しました。くっきりとした高解像度で、7.2インチのタッチディスプレイ、14.2インチのメーターディスプレイ、16.9インチのインフォテインメントディスプレイから構成されています。

かつて、Cadillacの古いインフォテインメントシステムは雑然としていて、処理速度の遅いUXでした。新バージョンでは、Caddy(Cadillacの愛称)がその教訓をしっかり学んだということを証明しています。iPadやiPhoneでおなじみの操作で簡単にカスタマイズでき、画面上のスペースを有効活用できます。一般的な日よけのメーターフードがないため、すっきりとした先進的な見た目も特徴的です。

1枚ではなく複数のディスプレイで構成されている理由には、技術的な問題もあったのかもしれない。

Escaladeが採用している「世界初」は、この湾曲ディスプレイだけではありません。自動車線変更機能を備えたSuper Cruiseの搭載です。これは、フルサイズSUVというセグメントのなかではEscaladeが初となります。Super Cruiseとは、ドライバーがウィンカーを操作すると自動的に車線変更してくれる、ハンズフリーの高速道路運転支援システムです。

NFCによる携帯電話のペアリングとワイヤレス充電器は標準装備。古いサンルーフは過去のものとなり、エントリーグレード以外はパノラマルーフを備えています。

価格と電動化に対する疑問

Cadillacは車内空間を大幅に改良しましたが、まだ解決すべき問題がいくつか残されているように思えます。

6.2LのV8エンジンは、オプションのマグネティックライド・コントロールとエアライド・アダプティブ・サスペンションにより、快適なクルーズ性能を発揮します。パワーと燃費性能のバランスを考慮した選択肢として、3.0LのV6ターボディーゼルが新たに用意されています。

車は確実に良くなっている。しかし、疑問を拭いきれないのも事実。

しかし、Hummer EVの復活など、GMCが宣言しているEVモデルのラインナップの中にEscaladeの名はありませんでした。Cadillacは過去にV8エンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッド車を発売したことがありますが、この新型Escaladeには電動化計画がないのでしょうか。完全EVでなくても、電気モーターの持つ経済性、静粛性、トルクなどさまざまなメリットを活用する方法は明白にあります。事実、ライバルのLincolnも熱心に開発に取り組んでいるのです。

もうひとつの大きな疑問は価格です。CadillacはSlash Gearの取材に対し、2021年モデルのEscaladeを既存モデルと同じような価格で提供することを目標にしていると認めました。すなわち、76,000ドル弱(約835万円)のスタートを目指すというもの。しかし、これはエントリーグレードの価格であり、実際には、プレミアムラグジュアリーやスポーツといった上級グレードにステップアップすること考えると、興味深いものになります。Super Cruiseの価格も発表されていません。

Cadillacは十分に努力しているか

自動車業界のジャーナリストには、辛口な人も少なくありません(特に海外メディアの場合は非常にシニカル)。しかし、Cadillacの新車発表会場の雰囲気は、大型SUVに対して予想外に好意的。デザインについては意見が分かれるかもしれませんが、ジャーナリストの多くは、新型EscaladeがライバルのNavigatorに対し有利な戦い繰り広げるのに、十分な要素を含んでいると確信しているようです。

車内空間やラゲッジスペースの拡大は、古いモデルに対する批判に対応したものです。Cadillacはここ数年で、製品の質がその価格に見合っているだけでは必ずしも販売成功にはつながらない、ということを発見したようです。

Escaladeは誕生当時、高級SUVの草分け的存在だった。新型はライバル達の後塵を拝すことがないよう願いたい。

Cadillac CT6は同社の素晴らしい高級セダンですが、Audi/BMW/Mercedes のジャーマンスリーが市場を席捲している中で、その存在感を高めるのに苦労しています。おそらく最大の欠点は、Cadillacが大胆でアメリカンなラグジュアリーを謳っているにもかかわらず、それがユーザーの記憶に残るほど大したものではないということです。Cadillacのコンセプトカーは優雅で、多くのユーザーの目を惹きつけますが、実際に販売が開始されるころには、その熱は冷めています。

新しいEscaladeは、これまでのEscaladeが得意としてきたことをさらに強化し、欠点を補うこともできています。この2021年モデルは、より大人っぽく完成度が高いように感じられますが、その成熟により先代までの野心的な精神を失う危険もはらんでいます。新型Escaladeが以前より優れたSUVになることは間違いありませんが、魅力的な車になるかどうかはわかりません。

林 汰久也

愛知県在住 28歳。ハウスメーカーの営業を経て、ITベンチャー企業のメディア事業に参画。現在は退職し、フリーのライターとして活動中。マツダRX-8、シトロエンC4を乗り継ぎ、現在は2010年式スバル フォレスターに落ち着く。

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