ホンダの中型高級セダン「アコード」の改良新型が先月、北米で発表されました。北米では2.0Lのハイブリッドと1.5Lのガソリン車が用意されており、改良によって仕様向上や安全装備の充実が図られています。本命のハイブリッドモデルの長所・短所はどこにあるのか、米スラッシュギア編集部が試乗しました。
(以下、米スラッシュギアのクリス・デイビスによるレビュー)
2021年モデルのホンダ・アコードのトランクとフェンダーに「HYBRID」のバッジが付いていなければ、電動化されていることには気づかないだろう。ハイブリッドの繊細さは新型アコードの魅力の一部であり、環境にやさしいテクノロジーというよりは、プレミアムで洗練されたパワートレインと位置づけられている。
非ハイブリッドモデル(北米ではガソリン車も展開)との外見上の違いは最小限に抑えられているが、デザイン性に欠けているという意味ではない。改良に伴う主な変更点は、フロントグリルの大型化、ヘッドライト/テールライトのLED化、ホンダ・センシング(安全装備)の充実など。
こうした変化によってアコード・ハイブリッドは落ち着いた(成熟した)ように見えるが、地味というわけではない。ホンダはうまくバランスを取っている。わたしは、ヘッドランプからドアにかけて弧を描き、テールライトへと流れ落ちるシャープなラインが好きだ。フロントのクロームバーとデイタイム・ランニングライト(DRL)もすっきりとしたタッチだ。
ホンダの課題は、従来の顧客と新しい顧客の好みのバランスをとることだった。なぜなら、新型アコードは既存のオーナーの定期的な買い替えだけでなく、若いドライバーにとってホンダ車への入口の1つとなることを視野に入れているからだ。
注目すべきはドライブトレインだ。アコード・ハイブリッドは、「2モーターハイブリッド」と呼ばれるシステムの最新バージョンを採用している。プラグイン・ハイブリッドではないので、外部からバッテリーを充電する方法はない。ガソリンエンジンからの余剰電力を回収したり、減速時の回生ブレーキでバッテリーを補充したりする。
エンジンとモーターを合わせて、合計212馬力と315Nmのトルクを発揮する。これは、標準モデルの1.5Lターボよりも20馬力/54Nm多い数値だ。0-97km/h加速のタイムを1秒短縮し、燃費も向上した。米国のEPAサイクルでは20.4km/lと評価されている。ちなみに、1.5Lターボ搭載車は14.0km/lと評価されている。
アクセルを踏んだ時の安定したレスポンスを考えると、ハイブリッドを選ばない理由は思い浮かばない。もちろん価格設定で迷うことはあるだろう。ガソリンエンジンを搭載したエントリーグレードの「LX」が24,770ドル(261万円)であるのに対し、ハイブリッドは最も安いグレードでも26,370ドル(278万円)からとなっている。
乗り出してすぐに、その価格差の価値は実感できた。エンジンは発電機として稼働するか、またはクラッチにつないで車輪に動力を送るか、自動的に調整される。ECONモードのボタンを押すとアクセルレスポンスが穏やかになり、SPORTボタンを押すとその逆になる。アダプティブダンパーを搭載した「ツーリング」グレードでは、ステアリングのレスポンスだけでなく乗り心地も向上する。
EVボタンを押すと、電気のみで1.6kmまで走れるが、エンジンを動かさないようするにはアクセルの踏み方に気を配る必要がある。夜間の住宅地などで騒音が気になるのであれば、バッテリーが十分に充電された状態で優しくアクセルを踏もう。
しかし、それよりもわたしがコントロールに苦労したのは、回生ブレーキだ。他の電動モデルと同様に、アコード・ハイブリッドは減速を回生ブレーキに頼っている。もちろん最終的には機械式ブレーキも作動させるのだが、デフォルトでは回生ブレーキをほとんど感じられない。回生の強さは、パドルを引くことで、ダウンシフトによるエンジンブレーキと同じように調整できる。
注意したいのが、パドルで調整した回生の強さは “維持されない” ということだ。ノーマルモードとECONモードでは、設定してから約1分後、または手動でブレーキをかけて減速させるとデフォルトに切り替わる。つまり、自分好みの回生レベルを見つけたとしても、一定時間走行すれば再びパドルを引いて調整し直さなければならない。SPORTモードでは、手動でブレーキを踏まない限り、設定した通りのレベルで走り続ける。
欠点はさておき、アコード・ハイブリッドはただの堅実なエコカーではなく、ハンドルを握る喜びも感じられるセダンだ。アクセルレスポンスには弾力があって心地よく、電気モーターは発進時に十分なトルクを発揮してくれる。特筆すべきは、モーターからエンジンへ、回生ブレーキから機械式ブレーキへと、各システムはスムーズなバトンの受け渡しができている。2基の電気モーターはしっかり協調している。
ハイブリッドの恩恵は他にもある。例えば、2.0Lエンジンから聞こえてくるノイズは一般的なガソリンエンジン車よりも静かで品がある。ありがたいことに、アクセルを踏み込んでからドライブトレインが追いつくまでの「ゴムバンド」のような奇妙な感覚は、はるかに少なくなった。完全EVほどダイレクトではないが、他のハイブリッド車よりははるかに優れている。
もちろん、EVにあるような航続距離の心配も無用だ。ホンダによると、タンクを満タンにすれば、最大965kmのドライブ旅行に出かけることができるという。1回の充電でそれに匹敵するEVはないし、ガソリンを補充するときのスピードもない。セダンの滑らかな乗り心地はクルーザーとして理想的だし、ホンダ・センシングの車線維持支援付きアダプティブ・クルーズコントロールを標準装備している点もありがたい。
ホンダ・センシングは、今回の改良によって車線維持機能をアップグレードし、アダプティブ・クルーズの動作も洗練させた。クルーズコントロールをオンにしなくても、車線維持は単体で利用できる。高速道路以外の田舎道でも便利だ。ツーリンググレードには、時速10km未満でパーキングセンサーを使ってブレーキをかける低速ブレーキコントロールも標準装備されている。
インテリアとしては、タッチ式インフォテインメントシステム、Apple CarPlayとAndroid Autoの有線接続、デュアルゾーン・エアコン、リアシートベルトリマインダーを全車標準装備。EX以上のグレードには、充電用のリアUSBポートとワイヤレス充電パッド、CarPlayとAndroid Autoのワイヤレス接続、パワームーンルーフ、12ウェイのパワーシート、ブラインドスポットアラート、シートヒーターが装備されている。
EX-Lグレードでは、シートとステアリングホイールにレザーを施し、オーディオのアップグレードと助手席の電動調整機能が追加される。ホンダが売り上げの30%以上を期待しているツーリンググレードでは、19インチのアロイホイール、アダプティブダンパー、ナビ、ヘッドアップディスプレイ、シートベンチレーター、リアシートヒーター、パーキングセンサーなどを搭載している。
個人的には、コストパフォーマンスとパワーを両立できるEXグレード(30,320ドル/320万円)がスイートスポットだと思う。グレードにかかわらず、473Lのトランクスペースと60/40分割のリアシートを手に入れることができる。
ホンダの米国でのラインナップには、今、EVの形をした大きな穴が空いている。不人気の「クラリティEV」は生産終了し、かわいいが航続距離の少ない「ホンダe」は北米市場に導入されないことになっている。ホンダのファンでEVに憧れているユーザーは、少なくとも当分の間、妥協せざるを得ない。アコード・ハイブリッドは優れたクルマだが、電動モデルのメインディッシュとして見るのは難しい。
幸いにも、ホンダはそのギャップを認識している。ゼネラル・モーターズ(GM)との提携により、少なくとも2つの完全電動モデルが北米に導入されるほか、ホンダは研究開発費と新しいプラットフォームの開発に伴う時間的なコストの両方を跳ね除けることができる。その間、2モーターハイブリッドシステムを既存のラインナップに普及させていく。
しかし、アコード・ハイブリッドは今のところ、ワンツーパンチの「ワン」で終わっている。威圧感を感じさせない親しみやすいデザインと、経済性を向上させるシステムが巧みにパッケージ化されており、これまで築き上げてきた評判も味方して、ユーザーを電動モデルに導くのに十分な実力を備えている。だが、本当に必要なのは、ユーザーを味方につけた後、彼らに提供すべき魅力的なEVなのだ。
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