Audiが「AI:ME」にVR技術を採用!自動運転EVの未来像が見えるコンセプトカー

VR採用は単なる話題作りではない

「自動運転が普及した将来、ドライバーは車の中で暇を持て余すかもしれない。」

Audiの「AI:ME」は、一風変わったところに目を付けたコンセプトカーです。自動運転のEVが当たり前のように街中を走るようになった将来を見越して、他車との差別化を図るために車内エンターテインメントにVR技術を取り入れました。一見すると、(悪い言い方をすれば)単なる話題作りにも思えますが、自動運転のEVならではの「悩みどころ」が表れているようにも見えます。

人がハンドルを握らなくなったら、車に対する価値観は大きく変わるに違いない。

世界で最初の車が発明されて以来、ドライバーの役割は実質的に変わっていません。しかし、AIが舵を取るようになれば、車に乗っている人たちは移動の間に何をして過ごせばいいのでしょうか。また、「運転を楽しむ」という概念が薄れたとき、ライバル車との差別化はどのように図るのでしょうか。一般的なエンジンは個体によって振動や音などの特性がありますが、モーターを使うEVの場合、その差はごく小さいものになるはずです。

Audi Intelligence:車のパーソナライズ

Audiは2019年4月の上海モーターショーでAI:MEを発表し、翌1月にラスベガスで開催されたCES2020でVR技術を盛り込んだビジョンを公開しました。

コンセプトは「共感できる車」で、AIがユーザーの好みを学習し、そのニーズや希望を理解することができるといいます。「AI:CON」「AI:RACE」、そして最近では「AI:TRAIL」など、AudiのAIファミリーに加わったAI:MEは、Audi Intelligenceと呼ばれるものを実装しています。

乗る人にあわせて車が進化する時代がやってくる。

AIは、ドライバーが好む車内温度や照明の色合い、走行ルートなどを理解します。そして、お気に入りのレストランを提案し、自動でルートを設定して車を動かしてくれます。自動運転とパーソナライズの組み合わせにより、移動に対する概念が変わるでしょう。

大きく開いた開口部の中央にフロントシートがある。ドライバー自身が車からおもてなしを受けるような印象だ。

インパネには大きなOLEDパネルが備わっており、3Dでルート情報などが表示されます。主にアイトラッキング(視線の動き)によって、ナビなどの操作が可能です。2台の赤外線カメラが、ドライバーと助手席に座る人の目を監視し、筋肉の微細な動きから正確な視線を把握します。わざわざ手を伸ばして操作する必要がありません。もちろん、ドアに設置されたタッチパネルで操作することもできます。

ほかのコンセプトカーにもみられる、ワイドなディスプレイ。今後の主流になりそうだ。

そしてVRゴーグルを装着すれば、インターネットを閲覧したり映像を楽しんだり、またゲームを楽しむこともできます。車の動きと連携しており、実際には街中を走っていても、海外の田舎道を走っているかのように風景を映す機能も備わっています。通勤で使う退屈な高速道路を、美しい小川に変えることができるのです。

未来都市にフィットするスタイルとサイズ感

コンセプトカーは大きさで人目を引くことが多いのですが、このAI:MEはその反対です。全長4300mm、全幅1900mmという少しずんぐりしたハッチバックで、都市環境での操作性や利便性に焦点を合わせています。コンパクトではありますが、各ホイールをボディの隅に配置して2770mmのホイールベースを確保しているため、車内スペースは広々としています。

コンパクトカーの部類には入るが、ワイドボディとロングホイールベースによって広い居住空間を生み出した。

フロントシートは、クラシックなラウンジチェアに影響されたものです。リアシートは車の形状に添って曲線を描いており、2人分のスペースがあります。Audiのデザイナーたちは、木などの自然素材を用いて上質な空間を作り上げました。

ホイールの大きさは23インチと巨大です。ルート上で起きた事故など検知すると、マイクロマトリクスプロジェクターを使って、AI:MEの周囲に警告信号や情報を表示し、ほかの車や歩行者と共有することで安全性を高めています。自動運転モードに設定すると、ハンドルやペダルが自動的に格納されます。

自動運転モードに入ると、ハンドルとペダルが格納される。VRゴーグルをつけてくつろごう。

Audiのコンセプトに垣間見る、車の将来像

どのようなコンセプトカーでもそうですが、ユーザーにとってもっとも気になるのは「この車が実際に売り出されるのかどうか」といったところでしょう。Audiはいまのところ、AI:MEのような車がいつショールームに並ぶのか、明らかにしていません。ただ、近い将来ではないと考えるのが妥当です。

デザインと車内空間、そしてテクノロジー。自動運転EVでは、この3要素に注目したい。

自動車メーカーは現在、車が抱える多くの課題を解決するためにテクノロジーへの依存度を高めようとしています。たとえば、Audiは2020年半ばから、個々のドライバーのプロフィールを車からクラウドに同期させる予定で、座席の調整位置など最大400のパラメーターが保存されます。このデータは、本人が乗るどの車にもダウンロードすることができ、常に快適なドライブの実現につなげます。

また、スマートフォンアプリ「myAudi」とBluetoothを利用して、車がドライバーを認識し、物理的なキーを持たずにロックを解除できるようにするという計画もあります。

クラウドに蓄積されたAudiオーナーのデータは、どのAudi車でもダウンロード可能になる。AIが常に最適な移動を提案してくれるだろう。

こうした動向から読み取れるのは、自動運転車では走行性能よりも「パーソナリティ」が重視されるだろうということです。市販車からは「走りを楽しむ」という概念が薄れ、「移動を楽しむ」という方向へ進むことでしょう。今まで以上に空間の快適性やエンターテインメント性に注目が集まり、各メーカーはそこで差別化を図るはずです。そこでAudiが新たに示した答えのひとつが、VRです。

ガソリンエンジンを積んだスポーツカーは、競技用・娯楽用として限られた場でのみ生き残るかもしれません。車好きからすると少し寂しく思えますが、「移動手段としての車」と「スポーツとしての車」に二極化することで、未来では新たな盛り上がりを見せるのではないでしょうか。

林 汰久也

愛知県在住 28歳。ハウスメーカーの営業を経て、ITベンチャー企業のメディア事業に参画。現在は退職し、フリーのライターとして活動中。マツダRX-8、シトロエンC4を乗り継ぎ、現在は2010年式スバル フォレスターに落ち着く。

コメント