タイム・マシン! 近未来のクルマ像が見えてくるテスラ・モデルX

2015年に登場したテスラ・モデルXは、業界で最もユニークな車両だと言える。僕は最初に肉眼で見た時、2025年からタイムスリップしてきたタイムマシンだと感じた。そのスペックは半端じゃない。ファルコン・ウィングドア、業界最大のタッチスクリーン、異次元の加速性、近未来的な室内、「対生物兵器モード」、業界一珍しい機能、テスラ専用の急速充電器ネットワーク、業界一の自動運転モード、世界の放送局と繋ぐインターネットラジオなどが満載したモデルXは類を見ない、まるでバック・トゥ・ザ・フューチャー的な高級SUVだ。

ファルコン・ウィングドアの動きは意外にスムーズで静か。
Photo by Peter Lyon

加速はスーパーカー並み

5年前に最初に乗ったテスラ初のSUVにも圧倒されたけど、昨年ラインアップに加わったビッグマイナーチェンジの2019年仕様に再び感動した。「P100D」何たらかんたらという車両のネーミングもすっかり変えて、簡単に「ロングレンジ」と「パフォーマンス」の2種類になった。

さて今回は、EVパワートレイン効率やエアサスペンション等などが強化されたロングレンジに乗ってみた。航続距離は507kmまで伸びている。4WDで2モーターを採用するモデルXは充分速い。0-100km/hの加速は、4.6秒とスーパーカー並み。ちなみに、フラッグシップのパフォーマンス仕様だと、その速さは2.8秒。テスラは車両のパワーを言いたがらないけど、海外のプレスを見ていると、ロングレンジ仕様はおよそ550ps。パフォーマンス仕様の1300万円に対して、ロングレンジは1110万円からのプライスになる。正直なところ、ロングレンジ仕様で充分に速いし、1110万より高い料金を払う必要はないだろう

とにかくモデルXは異次元の加速を持つので、いつアクセルを踏んでも、瞬間的に加速する。そのパワートレーンの効率向上では、加速性はさらにスムーズになったけど、今回初めてホールド機能がついた。というのは、ACCを使っていると、前方の交通状況によって、ブレーキを踏まないまま車両は自動的に減速してから完全に止まってくれる。

ドライバーの頭上までウィンドスクリーンは伸びているので、開放感は素晴らしい。
Photo by Peter Lyon

ガルウィングではなく、ファルコン・ウィングドアの理由

また、いうまでもなく、モデルXのバッテリー、モーター、インバーターなどのハードウェアがフロアより低い位置に配置されているので、その低重心のおかげで、同車はコーナーでのロールを抑制して、安定した走りを保つ。さらに、ステアリング感覚も向上したので、路面からのフィードバックがさらに良くなり、同時にハンドルの重さはちょうど良くセッティングされている。もともと、ロールを抑えるために改良されたエア・サスペンションは硬めの設定だけど、街乗りでは気持ちの良いしなやかな乗り心地が特徴だ。ブレーキのフィールは充分だろうけど、2500kgの重い車重に対してもう少し制動力が欲しいと思ったこともあった。普通のガソリン車と比べて、EVであるモデルXのスムーズさと静けさは見事だ。静粛性が素晴らしいからこそ、風切り音やタイヤノイズなどの細かい音が聞こえてくる

やはり、モデルXで一番目立つ特徴はなんと言っても、あの翼っぽいドア。テスラがなんで「ガルウィング」という呼び名使わないかというと、ガルウィングには1つのヒンジ(関節)しか付いていないのに対して、ファルコンウィングには2つ付いていて、なんと30cmという隙間でドアが開く。それに、ガル(カモメ)より、ファルコン(鷹)の方が格好いいだろう。

業界最大の大型タッチスクリーンは使いやすい。
Photo by Peter Lyon

世界中のラジオ放送局を聞く事ができる

室内は、まさに名画「2001年、宇宙の旅」に出てきそうな雰囲気のキャビン。トリムの質感やレザーの質は上品だし、スイッチ類がどこにもない内装がスパルタンで、シンプルな割には、そのハイテクな性格が目立つ。運転席から周りを見渡すと、リアのウィンドー以外は視認性がとても良く、しかもキャビンの開放感は素晴らしい。やはり、何よりもドライバーの頭の上まで伸びるウィンドースクリーンが際立っている。まるで、ドライバーのためのサンルーフみたいなものだ。運転していると、普段は頭上を見上げることはできない。僕は今回、運転席から初めて星空や流れ星を見た。ただ、唯一の弱点は、真夏の炎天下では、その広いガラス面のスモークの濃さが足りないので、かなり眩しい。

あの翼っぽいドアを開けなければ、モデルXはこんな形をしている。
Photo by Peter Lyon

モデルXは、SUVということで、5人乗り仕様、6人乗り仕様、それに、7人乗り仕様から選択できる。テスラの話によると、日本では家族向けの6人乗りが一番人気だそうだ。内装は広いし、180cmまでだと3列目シートでもレグルームもヘッドルームは充分だと言える。また、僕が大好きなユニークな機能は、日本車にはないインターネットラジオ。モデルXは常にインターネットとつながっているので、いつでもどこでも、世界各国のどのラジオ放送局を聞く事ができる。例えば、今日は海沿いの道路を走ろうとウェストコースト気分になったあなたは、すぐにカリフォルニアの放送局からイーグルスの名曲が選べる。

このユニークなドアのおかげで、乗り降りしやすい。
Photo by Peter Lyon

業界初の対生物兵器モードの意味が重大

インパネを支配する17インチの大型タッチスクリーンは見ものだ。この1枚だけで、エアコン、GPSナビ、オーディオ、充電状況、ゲーム、「対生物兵器モード」などの車両の全てのシステムの調整ができる。「対生物兵器モード」は特に面白い。業界初の医療用HEPAフィルターを採用し、通常の車よりもバイ菌、花粉、ウイルス、PM2.5などを除去する能力が300倍以上だという。画面の中のアイコンをタッチすると、いきなり車内の気圧が上がり、外気をフィルターでもって清浄する。新型コロナウイルスに対して、どの程度効果的なのか未公開だけど、かなり効くと思われる。

ところで、同車の507kmという航続距離だけど、テスラが言うには、5月末までには、インターネットでソフトウェアのアップデートをダウンロードすると、航続距離はさらに20~30km伸びるという。凄いというしかない。しかも、テスラ専用の超急速充電器「スーパーチャージャー」では、30分ほどで80%まで充電できる。

ブレーキを踏むと、自動的にドライバー側のドアが閉まる。
Photo by Peter Lyon

テスラのオートパイロットは業界一

テスラの自動運転モード「オートパイロット」も業界一と言える。もちろん、ほとんどの国では手放しの自動運転を許可していないので、テスラは「オートパイロット」と呼んでいても、この機能は「半自動運転」というふうに解釈した方がいいだろう。しかし、「自動運転」レベル3以上の法律ができたら、テスラはすぐさまそのオートパイロットの導入ができるようになっているけどね。車両には、カメラが6つ、センサーが12個、またはレーダーも付いているので、モデルXは常に、360度の周囲の車両の動きを把握しているし、オートパイロットのモードが作動している間に、ウィンカーをつけると、後方の安全を確認してから、クルマは自動的に車線変更してくれる。また、自動パーキング機能も優れている。

スイッチ類がないスパルタンなインパネ。
Photo by Peter Lyon

「ドアが開くのが遅すぎる」とか「こんなドアは格好つけすぎ」という人はいるけど、僕はこのクルマには、ファルコン・ウィングドアは不可欠だと思う。だって、このクルマは普通のSUVじゃないので、普通のドアでは平凡過ぎるではないか。モデルXは確かに、現代のクルマではあるけど、多くの機能やそれらの可能性を見ると、これから5年先とか10年先のクルマ像がみえてくると思う。つまり、このモデルXに乗ることによって、近未来のEVの加速、走り、充電状況、意のまま新しいソフトウェアのダウンロードができること、全ての機能を一枚の大型タッチスクリーンで調整すること、自動運転、ウイルスから守る生物兵器モードなど、未来的な可能性が実現されているからだ。そう、思っていた通り、モデルXはタイムマシンだった。

ピーター ライオン

1988年より日本を拠点に活動するモーター・ジャーナリスト。英語と日本語で書く氏 は、今まで(米)カー&ドライバー、(米)フォーブス、(日)フォーブス・ジャパン 、(英)オートカーなど数多い国内外の媒体に寄稿してきた。日本COTY選考委員。ワー ルド・カー・アワード会長。AJAJ会員。著作「サンキューハザードは世界の’愛’言葉 」(JAF出版、2014年)。2015から3年間、NHK国際放送の自動車番組「SAMURAI WHEELS」の司会を務める。スラッシュギアジャパンでは自動車関連の記事・編集を担当し、動 画コンテンツの制作に参画する

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