連覇を狙うスバルSTIがニュル24時間の参戦車を全開テスト

スバルといえば、同社ブランドのモータースポーツ部門である「STI」製作の数々の特別仕様車と、世界ラリー選手権(WRC)の好成績を思い出す読者が多いはず。そのSTIチームは、1995年から2003年までの8年間、コンストラクターズ・チャンピオンやドライバーズ・チャンピオンを3回ずつ獲得した。この伝説的な好成績のおかげで、スバルやSTIの名は世界に知りわたり、 インプレッサWRX STIという車種が日本の高性能車を代表する1台となった。

それが、2008年にリーマン・ショックの影響で惜しくもWRCから撤退することになった話は有名だ。

ボディは、マット塗装のブルー地にボディサイドのチェリーレッドのラインが施されていた。 

世界一過酷なコースで3連覇を狙う

実はちょうどその同年から、STIチームが参戦し始めたのが、世界で最も過酷なレースと呼ばれている「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」だ。世界最長のこのコースは、ドイツ東部のエッフェル山脈に位置する全長25kmのサーキット。世界ラリー選手権で培ったノーハウや経験を生かして、13年連続でニュル24時間に参加した結果、2.0Lターボの「SP3Tクラス」でSTIはなんと6回もクラス優勝を果たしている。そして、今年2020年は、3連覇を狙っている。

さて、毎年恒例の儀式となった、その年の最新「Subaru WRX STI」 レース仕様車のテスト走行が、2月末に富士スピードウェイでメディアに公開された。

久しぶりにサーキットに姿を現したWRX STIは、新たにデザインされたカラリングで登場。ボディは、マット塗装のブルー地にボディサイドのチェリーレッドのラインが施されていた。その部分の表面は、本年仕様の「鮫肌」パターンとなっている。これは、空気の流れをボディ表面から剥がさずに整流するためだ。

STIの辰己英治総監督は、「この鮫肌は、ルーフの後ろ端など他の部分にも展開しておきたかったのですが、それは次回のテストで試します。NASCARではもうすでに実用化されている技術なので、概念は間違っていないはずです」と語っていた。

メカニックたちが、エアロパーツやブレーキ、サスなどを調整する。

燃料タンクの給油スピードが意外と重要

5月21日~24日開催予定のニュル24時間レースでのクラス優勝を目標とするSTIは当然、耐久性と軽量化に着目し、走行性能も見直した。でも、正直なところ、新型コロナウィルスの影響で多くのF1レースやモータースポーツのイベントなどが中止・延期されたりしている中で、ニュル24時間が開催されるか否かはわからない。

今年のマシンの変更点は細かい。空力デバイスの開発やフロントサスペンションのジオメトリー見直し、燃料タンクへの給油スピードの改善、新しいABS制御プログラムの採用などがメニューで、それぞれ個別に開発されてきた。そしてテスト当日は、それらの結果を盛り込んだ車両でのテスト走行となった。

例えば、ピットストップの時間を短縮するために、容量100Lが入る燃料タンクの給油は少しでも速くしたい。そこで、燃料タンクのエア抜き効率を高める開発が行われた。「一回の給油で数秒~10秒でも縮まれば、一昼夜で15回ほど給油するので、かなり有効です」と辰巳監督が語る。

僕も10年前に、ニュル24時間レースにレクサスIS-Fで参戦した時に、もっと効率よく早く給油ができていたら良いなと思っていたぐらいだから、この進化は重要だと思う。やはり、一回の給油につき、10秒の差は大きいからね。ピットストップ15回と考えると、2分以上のロスタイムになるわけだ。

今年のレースでは、クラス最速ラップタイム記録を狙う。

テストでは、リアウィングの角度、タイヤ空気圧の調整を繰り返す

足まわりでは、2019年のレースに参戦した選手から「ニュルブルクリンクでは車体が動きすぎる」との指摘があって、STIはそれにも対応した。辰己監督は、「ロールセンターを上げてやれば、ボディロール量が抑えられて、同時にしっかり感が生まれるます。そこからバネをよりソフトにしていけば、乗り心地もよくなるはずです」と語る。「新しいABSの制御プログラムは、非常に優秀です。高速からのフルブレーキングが多いニュルでは特に有効で、路面のμ(摩擦係数)が低い北コースでは大いにタイムアップに貢献してくれると考えている」という。

また、ブレーキパッドは1セットでは24時間を走り切ることができないため、レース中に交換することを前提として、フロントブレーキの摩材を薄型に変更。それによってフロントブレーキ2個で約650gの軽量化を果たしている。

テストセッションでは、走行枠の2時間を、主にニュル24時間に参戦する予定の井口卓人選手がWRX STIをドライブ。その際、リヤウィングの角度を変えたり、タイヤの空気圧を調整したりと、細かくセッティングを変えながら全開走行を繰り返した。

2020年には、3連覇を目標にするSTI。

ドライブを終えた井口選手は、「2019年のマシンは、完成度が高かったです。今年はそれをベースにさらに進化させるというプログラムです。特に新しくなったABSの制御は精密で、これまで路面の悪いニュルでは所々ABSが変に影響して戸惑うところがあったのですが、それらを解消するだろうし、ラップタイムにも影響は大きいと思います。それに対して、リヤの追従性にはまだ改善の余地がありましたが、それも今日2時間の走行で原因が判明したので、解消できると思います。これもタイムアップに大きく寄与しそうです。今年のマシンはコンデション変化にも強そうだし、とても乗りやすく安定した仕上がりになっていると思います」とコメントした。

3月の開発テスト以降は、マシンをドイツに向けて空輸し、4月25日・26日に現地で行われるニュルブルクリンク24時間レース予選レースに出場し、決勝レースに向けた準備を進める予定となっている。レースの開催を祈る。

ピーター ライオン

1988年より日本を拠点に活動するモーター・ジャーナリスト。英語と日本語で書く氏 は、今まで(米)カー&ドライバー、(米)フォーブス、(日)フォーブス・ジャパン 、(英)オートカーなど数多い国内外の媒体に寄稿してきた。日本COTY選考委員。ワー ルド・カー・アワード会長。AJAJ会員。著作「サンキューハザードは世界の’愛’言葉 」(JAF出版、2014年)。2015から3年間、NHK国際放送の自動車番組「SAMURAI WHEELS」の司会を務める。スラッシュギアジャパンでは自動車関連の記事・編集を担当し、動 画コンテンツの制作に参画する

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