メルセデス・ベンツは予告どおり、現在販売中の高級セダンEQSの大型後継モデルとして、同じEVプラットフォームで作られた新型EV SUVの「EQS SUV」を発表しました。EQS SUVは、EQS及びEQEセダンに続き、「EVA2」プラットフォームを採用した3番目のメルセデスEQモデルとなり、EV専用アーキテクチャで作られた車の中で最も大きな車となリマス。また、今後、小型のEQE SUVが後に続いて発表される予定です。
EQS SUVの公式デビューに先駆け、ドイツのフランクフルトにて一部メディア向けに公開された実車をSlashGearのUSチームも覗いてきました。エアロダイナミクスの奇才、EQSの後続モデルとしてEOS SUVをメルセデス・ベンツのデザイナーとエンジニアがどのように扱うのか、大きな関心がありました。EQS SUVの車両重量、加速度、効率など多くの具体的な数値はまだ発表されていませんが、EQS SUVはエアロダイナミクスとサイズ、そして豪華なスタイルと快適性を組み合わせたアプローチになっています。
EQS SUVは、2022年後半に米国で発売予定で、「EQS 450+ SUV」と「EQS 580 4MATIC SUV」の2つのパワートレインのラインナップです。これらは、アメリカ市場向けの最初のメルセデスEQ SUVの販売価格はまだ明らかにされていません。
EQS SUVは、EQSセダンに比べ198mmほど車高が高く、25mmほど車幅が拡張されたにもかかわらず、一筆書きの様な曲線を成すワンボウ・デザインを採用した「キャブフォワード」プロポーションを持つEQSと同じデザイン哲学を表現しています。実際、全長5,125mmのEQS SUVは、セダンよりもさらに前方にキャビンを配置しています。ダイムラーAGのエクステリアデザインディレクター、Robert Lesnik(ロバート・レスニック)氏によると、この選択は空力的に有利であると同時に、デザイナーが目指した外観を実現するものだそうです。
「私たちが目指したのは、長く、滑らかな外観です。」と、レスニック氏はEQS SUVについて語っています。「このクルマはまさに私たちが目指した外観だと言えるでしょう。」
アメリカではガソリンエンジン(ICE)搭載のメルセデス・ベンツGLEやGLS SUVと同じ工場で製造されるEQS SUVは、ICE搭載のSUVとデザインの方向性が大きく異なり、ICE搭載車と比べてより低く、よりエレガントなに仕上がっています。また、ホイールは21インチを採用していますが、タイヤを含めた全径は790mm(31インチ)で、これはGLS SUVと同じです。
「タイヤの直径は、クルマのスタンスを良くするために重要なのです。」とレスニックは指摘。ホイール上部と前後の黒く縁取りは、ツートンカラーというデザインだけでなく、板金使用による軽量化にも貢献。EQS SUVの最終的な車体重量はまだ公表されていませんが、メルセデス・ベンツの現場担当者は、約2.7トンになるだろうと話しています。軽量とは言えませんが、このセグメントの車両としては、決して突拍子もない数字でもないと言ったところでしょうか。
エアロダイナミクス性能
キャブフォワードデザイン以外にも、EQS SUVに施された多くの空力的な工夫がのエアロダイナミクス性能に貢献しています。ただし、メルセデス・ベンツはSUVがセダンと同じ空気抵抗係数に匹敵することはないと述べています。
EQS SUVは、EQSセダンと同様、滑らかなアンダーボディと、通常は閉じられたラジエーターシャッターなどにより、空気抵抗の少ないベースを構築しています。前出のレスニック氏は「このクルマには、ラインも折り目もアンダーカットも必要ないのです。」とコメントしています。
オプションとしての用意となりますが、ドア下のランニングボードも空力的なメリットをもたらします。EQS SUVのランニングボードは、F1マシンのアンダーボディーからヒントを得て、車体下部の見えにくい部分にまで下がっており、空気の流れが妨げられることなく、ホイールの後ろに誘導されます。
また、ホイール自体もエアロダイナミク性能を向上する工夫が施されています。一見すると、ホイールに施された格子状の細工のように見えるメルセデスのシンボルマークであるスリーポインテッド・スター、閉じた面に押し付けられていて、空気が通らないようになっており、これも空気の流れを管理しているのです。
レスニック氏によれば、EQSセダンの設計を始めた当初は、0.20という低い空気抵抗係数を実現できるとは思っていなかったそうです。しかし、可能な限り細部にまでこだわって、低いドラッグ係数実現させたのだそうです。EQS SUVはEQSには及ばないながらも、SUVの中ではかなり低い空気抵抗係数を有している様です。
オフロードにも対応した足回り
EOQ SUVのパワートレインは、EQSと基本的に同じで、SUVのEQS 450+とEQS 580 4MATICが用意される予定です。両バージョンとも、快適なハンドリングを実現する連続可変ダンパーとエアサスペンションを電子制御するAIRMATICが標準装備されるます。また、操縦性を向上させるリアアクスルステアリングも標準装備。これにより、後輪の操舵角を最大10度まで変化させることができ、最小回転半径を5.9mから5.5mに向上することができます。
EQS 450+は、265kWの連続出力を供給するリアアクスルモーター1基を使用し、後輪駆動を標準装備しています。一方、EQS 580 4MATICは、トルクシフト付きフルバリアブル4MATIC全輪駆動で、前後軸のデュアルモーターが連続的に400kWの最大出力(536hp)と最大トルク858Nmを発揮します。SUVのEQS 450+の最高出力355hp、最大トルク568Nmと比べると、その重厚感は歴然とした差になるでしょう。
EQS 450+ SUVにはオプションで4MATIC全輪駆動を追加可能ですが、これはメルセデスがインテリジェントオフロードドライビングモードと呼ぶものを利用する必要があリマス。EQS SUVのオフロードモードは、EQSセダンのエコ、コンフォート、スポーツ、インディビジュアルに加え、未舗装路、傾斜地、軽地形に全輪駆動を最適化するモードです。また、車高を最大で25mm上げることができます。
メルセデス EQの顔
他にも、車体後部にまだ子供がいることを感知して知らせる「乗員存在リマインダー」など、EQS SUVにはいくつかの新機能が搭載されています。
しかし、EQS SUVの多くはEQSセダンを彷彿とさせ、特にスタイリングの決定が似ています。デザインチームは、EVA2 EVの4台すべてに、共通項を持ったディテールを持たせたかったといいます。らせん形状のテールライト、光るドアハンドル、メルセデスのポインテッドスターをモチーフにしたガラス張りの 「グリル を模したエレメント」など、デザインの共通項は記憶に残りやすく、ブランドとの関連付けもしやすいからです。
グリルを模したエレメントに関してもレスニック氏は、「もはや、グリルでもなく、エアインテークでもない。これは顔なんです」独自のデザイン哲学を語っています。更にレスニック氏は、「フロントに何もないデザインを打ち出している自動車メーカーがたくさん出てきています。言ってみれば、顔がないんです。だから、みんな同じような顔をしている。私たちは、すべての車のフロントに表情を持つ顔があることが、とても重要だと考えています。」
広々とした室内
EQS SUVの一部メディア向け公開と同じ週に、エグゼクティブセダンEVのEQEにも初乗車しましたが、SUVのEQSに乗り込み、前席と2列目シートに座ると、EQEと同様にエレガントでアットホームな雰囲気ながら、ヘッドルームとレッグルームはSUVのほうが明らかに広いと感じました。64色のLEDアンビエントライト、イルミネーションドアシルパネル、パノラミックサンルーフなど、インテリアのディテールの多くもEQS SUVとEQEで共通していました。
もちろん、SUVのEQSはトランクスペースが広く、その分オプションの3列目シートを装着すれば最大7人乗りが可能になります。3列目のシートはスペースが限られているので、子供2人、または小柄な大人2人が座るのに最適のサイズと言ったところです。3列目と2列目のシートをフラットに折りたたむと、より多くの収納スペースを確保することができ、メルセデス・ベンツによると、3列目を倒すと878L、2列目と3列目の両列を倒すと2095Lの広々としたトランクスペースになり、ゴルフバッグ4つまで十分に収まるそうです。
オプションのエグゼクティブリアシートパッケージは、ディスプレイやコンフォートヘッドレスト、シートヒーター、ワイヤレスデバイス充電などの贅沢な装備で後部座席の快適な居住性をサポートします。
ディスプレイとスピーカー
SUVのEQS 580 4MATICには、運転席に12.3インチのスクリーン、センターに17.7インチの有機ELタッチスクリーン、助手席に12.3インチの有機ELタッチスクリーンの3つのインフォテインメントスクリーンから構成される、56インチのガラス面に並ぶMBUX Hyperscreen(ハイパースクリーン)が標準装備されています。欧州諸国をはじめ、今後導入が予定されている国では、助手席側に配置されたディスプレイでは、走行中でも動画などのコンテンツを楽しむことができます。ただし、ドライバーが走行中に助手席側のディスプレイを覗き込むと、システムがそれを検知して警告を発し、助手席ディスプレイを停止させる、安全機能も搭載されています。
標準装備の15スピーカーのBurmester 3Dサウンドシステムは、臨場感あふれるオーディオを実現するDolby Atmosに対応し、左右や前後だけでなく、上方や上空にも音像を送ることができます。
一方、EQS 450+では、的な12.3インチのインストルメントクラスターと、中央に配置された12.8インチの有機ELタッチスクリーンの組み合わせのハイパースクリーンアレイがオプションで用意されています。EQS SUVの両モデルでは、重要なナビゲーション情報をフロントガラスに投影するヘッドアップディスプレイがオプションで装備可能です。
航続距離は未発表、でも不安は感じない
MBUXナビゲーションシステムは、バッテリーの充電量が目的地まで十分かどうかを推定し、交通状況や運転スタイルに応じてデータを更新することができます。 利用可能な充電ポイントは地図上に表示され、充電切れの不安を解消します。
EQS SUVの0-60mph加速、最高速度、バッテリーパックの容量、航続距離などの詳細はまだ公表されていませんが、充電時間の目安はレベル2の充電器を使用した場合、11.25時間で10%から100%まで充電でき、110kWのDC急速充電を使用した場合、31分で10%から80%まで充電することができます。
米国では、EQS SUVを購入してから2年間、6万基以上のElectrify America(エレクトリファイ・アメリカ)の急速充電ステーションを無料で利用することができます。また、Mercedes me Chargeメンバーシップを取得すると、1つのアカウントでこれらすべてのステーションにアクセスできるようになります。エレクトリファイ・アメリカは2025年までに米国内でさらに1万基の充電ステーションを追加する予定です。
メルセデス・ベンツは、2039年までに完全にカーボンニュートラルな車両を製造するという目標「Ambition 2039」の一環として、欧州と米国のMercedes me Chargeで使用する分の電力を、再生可能エネルギーを送電網に供給し、相殺することを目指しているそうです。
競争が激化するラグジュアリーEV SUV
2022年後半に米国で販売が開始されるEQS SUVは、同じく2022年に米国で発売されるEQBクロスオーバーと共に、メルセデス・ベンツの高級 EV SUVのラインアップとなります。両モデルとも米国での価格はまだ発表されていません。EQS SUVは、BMWの「iX xDrive50」やTeslaの「Model X」などの競合としてに登場することになります。
メルセデス・ベンツがこれら競合と航続距離と価格で勝負しようとするなら、航続距離約490km~520kmで、ベース価格83,200ドル(約1,070万円)のiX xDrive50、航続距離約536kmのモデルXのクラス最高のベース価格114,990ドル(約1,480万円)に勝たなければならないということになります。参考までに、EQSは、EQS 450+セダンの航続距離が約563kmでベース価格102,310ドル(1,320万円)、EQS 580 4MATICセダンの航続距離が約547kmでベース価格125,900ドル(約1,620万円)です。
しかし、メルセデス・ベンツはEQS SUVを高級EV車ファンに売るために、航続距離や価格などの数字だけに頼ることはしないでしょう。むしろ、メルセデス・ベンツは、これまでのEQSのように、EQS SUVの特徴的なルックスとスタイリング、高度な技術、そして室内の快適性の組み合わせが勝利をもたらすと確信しているようです。
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