ホンダが北米で展開する高級車ブランド、アキュラのフラッグシップSUVとしてモデルチェンジを受けた新型『MDX』の実力はいかに。米スラッシュギア編集部が試乗しました。レポートをお届けします。
シャープなスタイリング、高級感のあるキャビン、充実した装備の数々により、第4世代MDXはよりハイエンドな領域へと上り詰めました。7人乗りのファミリーカーであっても、運転していて楽しい体験を犠牲にすることはありません。価格は46,900ドル(486万円)から。編集部が今回試乗した「Aスペック」グレードは57,100 ドル(592万円)となっています。
重さを感じさせない「薄くて軽い」デザイン
長いボンネット、余裕のあるダッシュ・トゥー・アクスル、リア寄りのキャビンを持ち、その結果、どの角度から見てもかなり魅力的なSUVになりました。全長・全幅・ホイールベースともに拡幅され、フロントとリアのトレッド幅も広くなった新型MDXは、大型グリルやヘッドランプから、ショルダーラインを施したサイドに至るまで、アキュラの美学を見事に体現しています。
堂々としていながらも重厚感をうまく隠し、どこか軽快な走りすら彷彿とさせるスタイリングです。高級SUVとして実用性を犠牲にすることなく、気高い印象を与えます。ホイールは19インチが標準で、「テック」と「Aスペック」グレードには20インチが用意されています。
新型MDXは多くの高級SUVと同様に、スポーティーさと快適性の追求という”葛藤”を抱えています。アキュラによると、先代モデルに比べてねじれ剛性が32%アップし、これまでで最も高い剛性を実現しているとのこと。フロントサスペンションはマクファーソン式ストラットからダブルウィッシュボーンへ変更。ブレーキは大型化され、可変ギアレシオステアリングにより安定性を向上。マルチロードパス構造を持つリアのマルチリンクサスペンションにより、荒れた路面から伝わる衝撃をカットしながら、荷室と3列目のスペースを確保しています。
搭載されているパワーユニットは、290馬力と362Nmのトルクを発揮する3.5L V6エンジンを採用。4気筒が主流の昨今では、珍しくなりつつあります。トランスミッションは10速ATで、パドルシフトを標準装備。一度に4速のダウンシフトが可能です。
スポーティーな走りを実現するSH-AWD
前輪駆動が標準ですが、注目は第4世代のスーパー・ハンドリング・オール・ホイール・ドライブ(SH-AWD)です。46,900ドル(486万円)のベースグレードでは2,000ドル(20万円)のオプションで、上位グレードには標準装備されています。エンジントルクの最大70%をリアに送り、そのすべてを左右のどちらかに分配してトルクベクタリングを行います。
6気筒エンジンでありながら、燃費は直列4気筒のライバルと十分に張り合えるものになっており、米EPAサイクルでは市街地モードで8km/l、高速道路モードで11km/lとされています(FF)。
残念ながら電動パワートレインの設定はありません。新型MDXのグローバル開発リーダーであるトム・グエン氏は、「電動化は、アキュラの将来の方向性において重要な部分になるだろう。2030年までには、モデルの3分の2が電動化されるだろう」と指摘しています。しかし、今のところ、MDXではV6しか選ぶことができません。
ありがたいことに、このV6はいいエンジンでした。新しいトランスミッションは積極的に働き、キックダウンにもためらいがありません。快適性を損なうことなく、十分なレベルのパワーを発揮します。インテグレーテッド・ダイナミクス・システム(ドライブモード)には、スノー、コンフォート、ノーマル、スポーツの4種類を用意。トランスミッションの動きやステアリングの重さなどを自分の好みに設定できるインディビジュアルモードもあります。
ドライバーを第一に考えたアキュラのこだわりにより、MDXはライバル車との差別化に成功しています。新型スポーツセダン『TLX』に採用されているものと同様のリアクティブ・ダンパーを装備し、乗り心地と走行安定性を両立。コーナリングでアグレッシブに攻めると、2トンのSUVに期待する以上に、フラットで俊敏なハンドリングを発揮します。
しかし、コンフォートモードに切り替えても、アダプティブ・ダンピングやエア・サスペンションのように、衝撃を和らげるような機能はありません。編集部が試乗したMDX Aスペックでは、サイドウォールの剛性を15%向上させたオールシーズンのブリヂストンタイヤを装着していたので、より顕著に表れていたのかもしれませんが、轍や凹凸のある道路ではライバル車よりも確実に硬く感じられました。
一方、プッシュボタン式トランスミッションを「S」にセットしてスポーツモードに切り替えると、より理にかなった動きを見せてくれました。SH-AWDは、NSXのようなパフォーマンスカーでは当然のことながら、MDXのような大柄なファミリーカーでもその価値を発揮します。雪道でも十分な安定性と、乗員のランチをひっくり返すほどのコーナリング性能を兼ね備えていると考えてください。
上質で使い勝手のいいインテリア
キャビンは大きく進化しているだけに、乗り心地が硬めなのは残念です。これまでのMDXに乗ってきた人なら、新しいキャビンには誰でも圧倒されるでしょう。紛らわしいデュアルディスプレイのインフォテインメント・システムや、アイアンマンのコードピースを彷彿とさせるダッシュボードはもうありません。本物のアルミニウム、リアルウッド、コントラストステッチを施したミラノレザーなど、上質な素材をセレクトしています。
物理的なコントロールは引き続き多く使われていますが、先代モデルに比べてはるかにまとまりがあるように感じられます。グロスブラックの樹脂パーツがふんだんに使われており、ビビッドなレッドレザーとのコントラストは良いのですが、ホコリや指紋は確実に目立ちます。
アキュラは、タッチパッド制御のインフォテインメント・システムにこだわっており、タッチスクリーンよりも注意力が損なわれにくいとしています。悲しいかな、編集部にはその方針が理解できませんでした。アキュラのトゥルー・タッチパッド・インターフェースは、スマートフォンやラップトップとは使い勝手が大きく異なります。12.3インチの巨大なセンターディスプレイに対し、パッド上の位置を画面上に1:1でマッピングするので、ノートPCのトラックパッドのようにスワイプして移動することはできません。
システム単体で見れば使い勝手の悪いものではないのかもしれませんが、普段使い慣れているタッチ・インターフェースとは異なるため、操作には慣れが必要です。
UIは非常に快適です。新しいプロセッサと60HzのフルHDパネルを搭載し、スムーズで滑らかに動作します。AIによってドライバーが最もよく使う機能を把握し、ショートカットとして前面に表示してくれます。
Amazon Alexaや音声認識機能のほか、Apple CarPlay/Android Autoのワイヤレス接続に対応。12.3インチのデジタルメーターが標準装備されており、アドバンスドグレードには12.5インチのカラーヘッドアップディスプレイが追加されます。15Wのワイヤレス充電器が備わっているので、あらゆる携帯電話にも対応できます。
ベンチレーションシートや3ゾーン・エアコン、27色のアンビエントライト、16スピーカーのELS Studio 3Dプレミアムオーディオシステムなど快適装備が充実。フロントシートは特に快適で、12ウェイのランバー・サポート付きとなっています。ステアリングホイールは小径になり、リムが太くなりました。Aスペックでは底面がフラットになります。
2列目にキャプテンシートを選ぶことができないのは残念です。中央の座席は取り外しが可能で、背もたれを倒すことでアームレストにすることもできます。上位グレードでは、後席から音楽、エアコン、サンシェード、そしてナビゲーション設定もスマートフォンでコントロールできる「CabinControl」に対応。また、ドライバーの声を増幅する「CabinTalk」も装備されています。
一方、3列目ではレッグルームが5cm以上広がっており、ヘッドクリアランスも1cmほど拡幅されているとのこと。身長174cmのスタッフが座ると、足回りは何の問題もありませんでしたが、頭皮がヘッドライナーをかすめていました。
トランク容量については、シートをすべて立てた状態で461Lあり、3列目を倒すと1,107L、2列目を倒すと2,022Lまで拡大できます。また、濡れたブーツや衣類、子犬を運ぶ必要がある場合に備えて、表面はカーペット、裏面は樹脂のリバーシブルカーゴフロアを採用しています。パワーテールゲートは標準装備。
アキュラの運転支援システム「AcuraWatch」を搭載し、アダプティブクルーズコントロール、車線維持支援、ブラインドスポットモニター、リアクロストラフィックモニター、前方衝突警報(軽減ブレーキと歩行者検知機能付)を標準装備。渋滞運転支援機能は時速72km以下で作動します。
2022年モデル アキュラMDX総評
アキュラが新型MDXで目指すところは明らかで、3列シートSUVをブランドの新たなフラッグシップとして位置づけ、アウディ、レクサス、ボルボなどの競合車に対抗するというものです。そのために、定評のあるV6とSH-AWDに加えて印象的なスタイリングを採用し、標準装備と運転支援を十分なレベルで備えています。
2021年夏には、3.0L V6ターボを搭載し、355馬力と480Nmのトルクを発揮する『MDX タイプS』が登場します。タイプSではアグレッシブなスタイリングとブレンボ製ブレーキ、21インチホイールを採用。スポーティー志向をより一層強めています。
高級SUV市場には多くのブランドが注目しており、ヒュンダイの高級車ブランドであるジェネシスが展開する『GV80』は、MDXよりも大胆なスライリングと豪華な室内空間を実現しています。3列目を本当に必要とする人は、やはりアキュラの方に傾くでしょうが、このカテゴリーのおける競争がより厳しいものになりつつあります。
MDXは、加えてスポーティーな一面を押し出すことでライバルとの差別化を図っています。明らかに「ドライバー」に焦点を当てたモデルであり、それでいて実用性に妥協がないというのが最大のセールスポイントとなるはずです。ライバルの中には、とことんラグジュアリーを追求するモデルもありますが、実用的であるといいう点においてMDXの右に出るものはありません。
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