Cruise Origin 発表:自動運転配車サービスの未来像

新しいモビリティビジネスへの挑戦

Cruise Originは自動運転車を売るのではなく、ただ座席を貸すだけ。

米GM(General Motors)の傘下にある自動運転開発会社のCruiseは、自動運転の電気自動車「Origin」を発表しました。開発にはホンダも携わっており、この3社はOriginが単なるコンセプトではなく、近いうちに実用化されるモビリティであると主張しています。

Cruiseにとって開発第1号となるモデル。同社はGM傘下のスタートアップ企業だ。

GMとホンダは、乗用車やトラックを個人および企業に販売、またはリースすることで財を成してきましたが、Cruiseのコンセプトは大きく異なっています。OriginはCruiseが所有し、配車サービスとして運営されます。24時間365日利用可能なCruiseアプリで、任意の場所に呼び出すことができます。

Cruiseによれば、一般のユーザーに対して高いコストパフォーマンスを発揮するとのことです。例えば、サンフランシスコでは数年前からプロトタイプを走らせており、過去12ヶ月で合計約100万マイル(160万km)を走行。その結果、同社の推定では、自家用車を所有するよりも年間5,000ドル(約55万円)も節約できるとしてます。

Cruiseにはソフトバンク・ビジョン・ファンドも出資している。ユニコーン企業としての評価額は、かのTeslaと肩を並べるほど。

人を運ぶことに特化したデザイン

Cruise Originは一見すると大きく見えますが、実は普通サイズのSUVと変わらない、と同社は言っています。にも関わらず、広い車内空間を確保できているのは、エンジンやガソリンタンクといった物理的な制限がないからでしょう。

EV×自動運転の無駄のない設計により、大人4人が乗るのに十分なスペースを確保した。

実際、電気モーターは車両の隅に押し出されており、バッテリーは床下にあります。車内にはハンドルやペダルなどの操作系装備も一切ないため、空間全体を座席にすることができています。2つの広々としたベンチが向かい合う形で設置され、足元には十分なスペースがあります。

各座席には、スマートフォンなどを充電するためのポートが並んでいます。天井に設置された2つのディスプレイにはステータスメッセージが表示され、送迎のスケジュールを映したり、シートベルトを締めるように促したりします。Cruiseがスライドドアを選んだのは、見た目がかっこいいからというだけでなく、開閉時に歩行者や自転車に当たらないようにとの配慮からです。

車両外側のディスプレイには番号が表示されており、アプリで呼び出した後にどのOriginに乗ればいいのか簡単に識別できます。ボディはモジュール式の構造なので、万が一こすれたり他の車と衝突したりしても修理が容易です。修理に限らず、パワーユニットやコンピューターなどの将来的なアップデートにも有利でしょう。

プレゼンを行うCEOの Kyle Vogt 氏。2013年にCruiseを設立し、16年に5億8100万ドルの買収額でGM傘下入りを果たした。

スマートデザイン、コストパフォーマンス、長寿命

Originは多数の自社製センサーを搭載しています。最も印象的なのは、フクロウの耳のようにルーフから生えている、ふたつのセンサーです。それぞれセンサーは素早く回転し、暗い夜のなかでも、歩行者や自転車といったさまざまな障害物を検知します。

その他にも多くのセンサーが取り付けられていますが、車のデザインをうまく利用して目立たなくしています。もちろん探せば見つかりますが、多くの自動運転車のプロトタイプが搭載する、ルーフ上で回転するLIDARセンサーほどあからさまなものではなく、よりスマートな見た目です。

耳のように突き出たふたつのセンサーは、車にキャラクター性を添えている。

こうした最先端のセンサー類は、自動運転車の製造コストを底上げする要因にもなります。しかしCruiseは、GMの持つスケールメリットに期待を示しています。実際、一般的な電動SUV-例えるならTesla Model X-と比較してみると、同じ価格でOriginを2台揃えることができます。

耐久性の高さも特徴のひとつで、Cruiseは100万マイル以上の寿命を見込んでいるようです。Originは24時間365日都市を走り回ることができるので、その能力に対する妥当な耐久性と言えるでしょう。

期待と疑問 不明点も多数

Cruiseは、実に魅力的なコンセプトを打ち出しました。配車サービスにはUberやLyftといった大手が存在しますが、Originの場合、ドライバーに気を遣うことなく(気まずい会話をせずに)利用することができます。ドライバーの運転技術や、目的地などの個人情報を心配する必要もありません。 さらにコストパフォーマンスもいいとなれば、ぜひ利用してみたいものです。

しかし同時に、多くの疑問も残されたままです。CruiseはOriginを手頃な価格にしたいと言っていますが、実際にいくらになるかは明かしていません。航続距離、充電インフラ、メンテナンス方法、待機中の保管場所なども不明確です。

最も重要なのは、Cruiseがいつ配車サービスを開始するのか、明らかにされていないことです。Originの計画は実現に向けて動き出しているようですが、どのように収益性を確保するのかは気になるところです。詳細が提示されないままに終わっているので、具体的なビジネスモデルについてはまだ固まっていないのでしょう。ただ、乗客がいないときは荷物の配送サービスにも応用できるようで、一定の収益は見込めるのかもしれません。

トラックのように配送にも対応。こちらの方が実用性があるかもしれない。

自動運転に対しては多くの企業が苦戦しており、Cruiseもその例に埋もれず苦い思いをしています。同社は2019年7月、年内に開始予定だった自動運転タクシーの事業を断念しました。意地悪な見方をすれば、企業として何らかの成果を社会に示す必要に迫られた結果、今回の発表に踏み切ったのでしょう。世界中から多額の出資を受けている企業故に、そうせざるを得ない事情があったと見られます。

どんなに高性能なバスや電車が登場したとしても、車のオーナーがキーを手放すかどうかは分かりません。安全かつ完全な自動運転社会は遠い未来の話であり、おそらくCruiseのOriginは、ドライバーに対するモビリティの依存度を緩めるものになるでしょう。日本の場合、こうした自動運転EVは、都市部よりもむしろ地方にニーズがあるかもしれません。人手や資金が足りず、公共交通機関の維持が難しい地方自治体にとって、代替案のひとつとして悪くないと思います。

とはいえ、その可能性がどれだけあるのかを知るには、この奇妙な乗り物が実際にアスファルトに車輪をおろす必要があります。

このような光景が見られるようになるには、残念ながらいましばらく待たねばならない。

林 汰久也

愛知県在住 28歳。ハウスメーカーの営業を経て、ITベンチャー企業のメディア事業に参画。現在は退職し、フリーのライターとして活動中。マツダRX-8、シトロエンC4を乗り継ぎ、現在は2010年式スバル フォレスターに落ち着く。

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