環境保護への意識が高まる中、それと逆行するようにスポーツカー市場も盛況を博しています。なかでも、ホンダの情熱的な「シビックタイプR」は、エンジニアの魂が込められたピュアスポーツであり、日本だけでなく欧州や北米でも広く支持を集めています。今回は、米SlashGear編集部によるシビックタイプRのレビューをご紹介します。
(以下、米SlashGearライターのクリス・デイビスによるレビュー)
アメリカはタイプRを待ち焦がれていた。デビュー以来、年を追うごとに買わない理由は減っているように思う。2020年モデルは38,000ドル(407万円)以下と、少しだけ値上がりしたものの、細部への注目度は大幅に上昇した。
スタイリングは凝りすぎ
タイプRが他のシビックと混同されることはない。巨大なリアウイング、がっしりとしたホイールアーチ、ボンネットのエアスクープ、そしてコントラストの赤ラインに至るまで、ホンダの意匠は凝っている。
ただ、こうしたデザインのすべてがうまく機能しているとは思えない。やはり盛り込みすぎた感はある。
獰猛なシビックを控えめに見せて欲しいなんて、こんなおかしいことを言うのは私だけだろうか?
これまでのタイプRは、ホイールアーチやスポイラーなどの装飾が控えめだった。時には、赤い「ホンダ」のロゴの輝きだけが、特別なシビックであることを示すこともあった。
2020年モデルのシビックタイプRは、どう大人しく見せようと思っても無理がある。信号待ちでは周囲の目を引く。ホンダは少し、頑張りすぎているように感じられる。
葛藤を覚えるのは、決して無駄な装飾ばかりではないということだ。角張った装飾の多くは機能的なものであり、2020年モデルではさらなる改良が加えられている。
熱によるサーキット走行性能の低下という指摘を受けて、ホンダはフロントグリルをオープンにして冷却性を高めた。しかし、その変更はダウンフォースに影響を与えるため、同時にフロントスポイラーにも手を加える必要があった。
シビックタイプRの主役はトランスミッションだ。6速MTしか設定されていないが、これだけの性能があれば苦にならない。シフトノブの握り心地もよく、手に馴染む。ストレス解消用のおもちゃのようだ。
アグレッシブな走りには柔らかすぎず、日常的な使用には重すぎず、絶妙な扱いやすさがある。すべてのトランスミッションがこれほど模範的なものであったら、アメリカでMTが急速に衰退することはなかっただろう。
2.0L 直列4気筒ターボは、最高出力306馬力、最大トルク400Nmを発生し、レッドラインは7,000 rpm。これ以上ハイパワーになると、すぐに免許を失うことになる。
ピークトルクは2,500rpmで発揮するが、3本のエキゾーストトランペットが最高のサウンドを奏でるのは3,500rpmを超えてからだ。
車内スピーカーを使用してサウンドを「強化」するASCシステムに人気がないには分かっているし、オフにするスイッチがあればいいのにという意見にも同意するが、これがないと音が汚くなってしまう気がする。
コミュニケーション能力の高いモンスター
2020年モデルでは、走りの面も大幅に強化された。アクティブダンパーの動作速度は10倍以上になり、ブッシュの剛性アップとボールジョイントの摩擦低減により正確なステアリングを実現している。
古いシングルピースのブレーキローター(フロント)はなくなり、耐フェード性の高いパッドとツーピースローターが採用された。ホンダによると、ブレーキペダルの遊びも少ないという。
瞬間的なブレーキの効きの良さを除けば、全体的に磨きがかけられた印象を受ける。昨年のシビックタイプRも素晴らしかったが、今年はさらに優秀だ。
これだけしっかりしていて、コーナーリングもできるクルマなのに、荒れた路面での対応力には驚かされる。
ドライブモードのスイッチをデフォルトの「スポーツ」から「コンフォート」にすると、20インチのアルミにコンチネンタル製サマータイヤ「SportContact 6」を履いているとは思えないほど快適になる。
マンホールの蓋にぶつかっても、少なくとも歯が抜けるようなことはないだろう。
反対に、スポーツモードまたは「R+」モードでは、「快適」の2文字はどこかへ飛んでいき、前輪駆動の面白さが顔を出す。ホンダが四輪駆動を設定する可能性についても報道されているが、タイプRには全く必要ない。
グリップ不足を感じないだけでなく、クルマとのコミュニケーションが取りやすいため、限界を超えてしまうこともない。アンダーステアも問題ないし、ステアリングとパワーをフロントアクスルだけに頼ってもトルクステアが出てこない。
裏で様々な工夫が施されているのは明らかだが、非常にフラットな印象を与えてくれる。ホンダの緻密なエンジニアリングが、悪い部分を取り除くフィルターの役割を果たしている。もちろん限界点はあるが、それを超えるためにはサーキットが必要だろう。
「ホンダセンシング」を全車標準装備
室内は、シビックお馴染みのインテリアに、スポーティーなトリムが施されている。従来の本革巻きステアリングホイールには、手触りの良いアルカンターラを採用。
スポーツシートにはたっぷりとしたクッション性があり、長時間のドライブでも快適な座り心地を確保している。しかし、ヒーターやベンチレーターの設定はまだない。
7インチのインフォテインメントシステムは、Android AutoとApple CarPlayに対応している。2020年モデルで新たに追加されたのは、スマートフォンにクルマの状況を表示するコンパニオンアプリだ。
全車に「ホンダセンシング」を標準装備し、アダプティブクルーズコントロール、車線維持支援、衝突軽減ブレーキなどが付属する。
ホンダが用意したオプションは少ないが、検討すべきディーラーパッケージはある。3,673ドル(39万円)の「カーボンファイバーキット」は、リアウイング、ボンネットスクープ、サイドミラー、インテリアパネルに赤みを帯びたカーボンのアクセントが施される。
1,112ドル(12万円)の「インテリアパッケージ」では、赤い室内照明、赤いシフトノブ、タイプR専用マット、照明付きセンターコンソールが追加される。
正直、両方なくても大丈夫だ。
クルマは外見で判断できない
これだけ絶妙なバランスで走るクルマの中で、最大の問題点は、過剰なスタイリングだ。好みの違いはあるにせよ、もったいないと言わざるを得ない。
もちろん、見た目だけで決めてはいけない。新色のブーストブルーパールは鮮やかで派手だが、従来のブラックとシルバーも選べる。色によって印象をある程度変えることは可能だ。
見た目だけを重視して、地味な「ゴルフR」を選ぶのは、必要以上に禁欲的なことだと思う。
美しさは見る人の目によるかもしれないが、シビックタイプRの夢のような走りに異論がある人はいない。
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