財政難に陥っていたAston Martinに救世主が現れました。同社は1億8200万ポンド(約261億円)の投資を受け、窮地を脱するその過程で、いくつかの重要なロードマップの変更も行われたようです。2019年に悲惨な業績を残してから、深刻なキャッシュフローの問題に直面していたAston Martinは、野心的なEVブランドの販売計画を延期。しかし現在、経営陣はこの計画がまだ軌道に乗っていると主張しています。
カナダのF1実業家、Lawrence Stroll氏が株式を買収
Aston MartinのCEO、Andy Palmer氏は「2019年は非常に残念な年だった」と述べ、資金調達先を探して投資家との話し合いに入っていました。その中で、中国の巨大企業吉利(ジーリー)が有力候補とも言われていましたが、実際に投資を名乗り出たのは、実業家のLawrence Stroll氏でした。今回、Aston Martinの株式の16.7%を1億8200万ポンド(約261億円)で買収。同社はさらに3億1800万ポンドの調達に動いていますが、Stroll氏の投資によりAston Martinはひとまず財政的な安定を得たことになります。
Stroll氏はF1チーム「Racing Point」を所有しており、今後はAston Martinの会長に就任することになりました。Palmer氏はCEOとして残り、2人は新たな事業計画に取り組むとともに、コストと雇用の削減に乗り出しました。Aston Martinによると、年間で1000万ポンド(約14億円)のコストを削減する必要があるようですが、2020年は700万ポンド(約10億円)程度の削減が実施される可能性が高いと思われます。
2020年のロードマップでは、同社初のSUVとなるAston Martin DBXの発売が予定されています。また、Vantage Roadsterが2020年春に登場するなど、明るいニュースもいくつかあります。
ハイパーカーのプロジェクト「Valkyrie」と「Valhalla」については、同社の超高級車モデルだけに登場が待ち遠しいところです。Aston Martin Valkyrie AMR Proは2021年に発表される予定ですが、Valhallaは2022年まで待たなければいけないかもしれません。いずれにせよ、新しいハイパーカーの誕生には期待が寄せられています。
EV販売戦略の遅れ
しかし、Lagondaブランドの復活に関しては、あまり良いニュースがありません。Aston Martinは2022年に高級EVブランドとしてLagondaを復活させる予定でしたが、現時点では早くても2025年に延期されています。
同社初のEVセダンとして販売される予定だったRapide Eも、依然としてあやふやな状態です。予定では今年中に販売が開始されるはずでしたが、Aston Martinによれば「Rapide Eの開発はほぼ完了していますが、計画はレビューのため一時停止しています。」とのこと。
一方、ハイブリッド技術を活用して燃費を向上させるモジュール式V6エンジンの開発は進んでいるようです。Aston Martinは、2020年代半ばには主力車種がハイブリッドバージョンに対応できると期待しています。
レーシング部門には大きな変化あり
投資に伴う契約により、Stroll氏が所有するF1チームのRacing Pointは、2021年からAston MartinのF1ワークスチーム(メーカー専属チーム)となります。この関係は10年間続くことになっており、Aston Martinは同チームの経済的な利権を手に入れたことになります。最初の5年間はスポンサーシップを結び、その後も一定の条件で更新が可能となっています。
Aston Martinは現在、Red Bull Advanced Technologies(Red BullのF1チーム)とスポンサーシップを結んでいますが、この提携は今のところ継続する意向を示しています。今やライバルとなってしまった両社の協力関係は、Valkyrieが発売されるまで続けられるようです。Red Bullは一連の動向に関して、「Valkyrieの開発は、引き続きRed Bull Advanced Technologiesの重要なプロジェクトです。最初の150台は、年末には顧客に納車される予定です。」と明らかにしました。
107年の歴史を持つ英国のスポーツカーメーカーは、救世主の登場によりひとまず窮地を脱したようです。現在、販売台数の世界的な減少や環境問題など、自動車業界は非常に厳しい逆風にさらされています。伝統的な一流ブランドですら存在を危ぶまれてしまうのです。Aston Martinがこれから経営を立て直せるかどうかは、今後のEV戦略とレーシング部門にかかっています。