安全性より経済性?エアバスとキャセイ、1人制パイロット検討 2025年導入目指す

新型コロナの影響を受けて、多くの企業では人員を削減する必要に迫られており、中でも航空業界が受けた打撃は非常に大きなものです。欧州の航空機メーカーであるエアバス社と、香港の航空会社であるキャセイパシフィック航空は、基本的に1人のパイロットで運行できるシステムの開発に取り組んでいます。

ロイター通信が報じたところによると、「プロジェクト・コネクト」と呼ばれるこのプログラムでは、パイロットは交代制で、1人がコックピットで操縦している間にもう1人が休憩を取るシステムが検討されています。長距離路線では通常4人のコックピットクルーが搭乗し、2人1組で交代で勤務しますが、同プロジェクトでは半数の2人しか搭乗しません。

エアバスとキャセイパシフィックは、2025年までに旅客便の高高度巡航における1人制パイロットに対応した『A350』の承認を目指しているとのこと。パイロットを支援するシステムをA350に搭載し、離着陸時には2人、巡航時には1人で運航できるようにします。

承認されれば、航空会社はさらに少人数のクルーで運航できるようになり、パイロットの必要性が半減し、フライトごとの客室乗務員の数も減る可能性があります。新型コロナの影響で長距離路線の運行に支障をきたしている航空会社にとっては、大幅なコスト削減が期待できます。しかし、乗客の安全性については十分に確保されているのでしょうか?

エアバス『A350』

現在の2名体制のシステムでは、万が一問題が発生した場合にも迅速な対応を取ることができます。コックピットに副操縦士がいれば、注意力の欠損や体調不良などを互いにチェックすることもできます。また、長距離フライトでは心理的な面でもメリットがあります。1人で操縦しているとプレッシャーが大きくなり、心理的な影響も出てくると懸念されています。

EASA(欧州航空安全機関)は、「長距離フライトで巡航高度に達したコックピット内では、ほとんど何も起こっていない」としながらも、「1人が休憩中に問題が発生しないよう、技術的な解決策が必要」との見解を示しています。

人為的ミスが航空事故を引き起こしたケースもありますが、自動化されたシステムに問題があると指摘する声も同様に多いのです。ボーイング『737 MAX』に搭載された「MCAS」(操縦特性補助システム)による2件の悲惨な事故をはじめ、自動化システムや副操縦士(または機長)の不在によって安全性が損なわれたケースは過去に複数件見られます。

エアバス『A350』

ドイツのルフトハンザ社もこの1人制パイロットシステム開発に取り組んできましたが、いまのところ実際に採用する予定はないとしています。エアバスの内部関係者の話では、パイロットが15分間不在にした場合、自動化システムがあらゆる状況に対応できるかどうかは保証できないとされています。

また、従業員の雇用が失われる点も問題です。すでに大規模なリストラが行われている中、パイロットや客室乗務員を半減させるという提案だけでも、従業員や労働組合からは反感を買うことでしょう。乗客にとっても、乗務員が減ることで長距離路線での安心感が損なわれるかもしれません。

こうしたハードルの数々を考えると、エアバスとキャセイパシフィックが検討している1人制パイロットの実現は困難と言えます。キャセイパシフィックが1人制パイロットを導入するには、国連のICAO(国際民間航空機関)と、中国をはじめとする各国の承認が必要です。

林 汰久也

愛知県在住29歳/ハウスメーカーの営業を経て、IT系ベンチャーのメディア事業に参画。2020年よりフリーのライターとして活動開始/愛車遍歴:マツダ『RX-8』⇒シトロエン『C4』⇒スバル『フォレスター』&ホンダ『クロスカブ50』/ゲームはPS派だが、最近ゲーミングPCが欲しいと思っている。

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