AppleとEpic Gamesの訴訟合戦が掘り出してしまったいくつかのトピック

直近で最も注目を集めている裁判のひとつ、Epic Games対Appleのベンチトライアルが2021年の5月の連休中に開始されました。この裁判はEpic GamesがAppleを相手取って起こした反トラスト法訴訟であり、テック界隈およびゲーム業界全体に何らかの影響を与えると見込まれます。AppleがApp Storeに対して行っている「厳しい管理」を解き放つことを目的としており、その管理は不当な独占に分類されると主張されています。一方でこの裁判は様々なプラットフォーマーの実態まで明らかにすることになっています。

2008年に導入されたApp Storeは、Appleにとって毎年何十億ドルもの利益を生み出しています。その一方でこれらの巨額の利益を下支えしているのはアプリの開発側です。開発者サイドは、ゲーム内で取引を行うたびに30%という高額なロイヤリティを負担しなければなりません。Epic GamesはAppleの方針にチャレンジしています。これまでにも、そして最近でも、Appleは反トラスト法の調査や苦情の対象となってきました。ところが今回ははるかに大きな波紋を呼んでいるのです。

事の始まり

2020年8月にEpic GamesがiOS版Fortniteをアップデートしたことがきっかけです。Epic Gamesは、ゲーム内課金を直接行えるようにしたのです。これはApp Storeのポリシーに明らかに違反していました。結果このゲームはStoreから追放されるに至ります。

これを受けてEpic Gamesは、今まさにAppleとの間で繰り広げられている壮大な戦いに備えました。公判前の事実調査の後、300ページ以上の文書が地方裁判官Yvonne Gonzalez Rogers氏の前に提出され、議論は法廷に移りました。舞台はカリフォルニア州オークランドの連邦裁判所です。ベンチトライアルの初日、Epic GamesのCEOであるTim Sweeney氏は、「EpicはあくまでもAppleの今後の行動の変化を求めている」と明言し、金銭的な損害賠償は求めていません。

Epic Gamesの主張

初日の最初の証人となったSweeney氏によると「AppleはそのiOSエコシステム(特にApp Store)において、デバイス上での代替アプリストアの選択肢を認めないという反トラスト的な行為を行っている」とされています。「反競争的なエコシステムを育成し、違法な独占のように振る舞いを許しており、1890年のシャーマン反トラスト法に違反している」とSweeney氏は語ります。

Epic Gamesの弁護士であるKatherine Forrest氏の主張は、AppleがApp Store上のサードパーティ製アプリを拘束していることに焦点を当てています。Appleは独自の決済システムしか認めていないため、開発者はゲームをホストするための費用と、それ以降のゲーム内での売上(例えば、Fortnite V-bucks)をすべて支払わなければなりません。これが不公平とされる重要なポイントです。Appleはゲーム開発者に独自のアプリ内決済方法を使用させ、バランスを取るべきだと主張しています。

道徳的な理由で正当なものと思われるもう一つの主張を見て見ましょう。それは30パーセントの手数料負担を追加していないAppleの自社アプリに対して、小規模な開発者が重大な不利を被っているというものです。Epic Gamesの弁護士は、Appleは各取引の仲介をするだけで80%近い利益を得ており、とても正当化はできないだろうと主張しています。Sweeney氏によると、30パーセントのマージンを取ることで、Appleはアプリの作成者よりも多くのお金を稼いでいるそうです。

Appleの防衛

これまでのところ、Appleはすべての疑惑に対して断固とした抗弁を行っています。Appleの弁護士は冒頭の声明で、30パーセントの手数料はユーザーのセキュリティとプライバシーを保護するために利用されており、iOSのエコシステムの品質チェックの手段であると述べています。Appleの弁護士によると、Epic GamesはAppleに対し、「あらゆるサードパーティのアプリストアを許可し、未審査・未テストのアプリをすべてのiOSデバイスに配信できるようにする」ことを求めています。

Appleは、この裁判を「iOSの哲学に対する攻撃」であるとしています。Appleデバイス上でサードパーティ製アプリのサイドロードを許可した場合に「抜け穴」が生じるとし、この弱点を穴埋めするために、より多くの費用を費やす必要があるとしています。他のゲームプラットフォームでも、Appleが認めている手数料率はほぼ同じです。ところがEpic Gamesはそこだけをターゲットにしているのか、論理的な理由が求められています。

明らかになったプラットフォーマーの実態

登場人物はAppleとEpic Gamesだけではありません。この裁判の一環として、Microsft社のゲーム・メディア・エンターテイメント部門の事業開発担当副社長であるロリ・ライト氏が今週、証言を行いました。それは、MicrosoftがProject xCloudをStoreに載せるためにApp Storeを回避しようとしたという、大々的に宣伝されたシナリオに関するものでした。焦点となったのは販売収入です。デジタルストアフロントが販売を通じてどれだけの収入を集める権利があるかということでした。

Epic Gamesの弁護士から、Xboxコンソールでどれくらいの収益を上げているのかと聞かれたライト氏は、1台ごとに赤字で販売していると答えました。彼らのモデルは、ハードウェアの費用をソフトウェアとサービスの収益で補う構造です。SONYもゲーム機で同じような取り組みをしています。マイクロソフトは、Xboxゲームの開発者から30%の収益を得て、その差に対抗しています。

Epic Gamesは非上場企業であり、通常は財務状況を発表する必要はありません。ところが今回の裁判で経営の実態が丸裸になっています。裁判においては彼らのお財布状況が公開されざるを得ないからです。これには大きな注目が集まっています。その中には、Epic Gamesがゲームに10億ドル以上を費やしていることや、Borderlands 3のゲームだけで1億1500万ドルを費やしている点が明らかになっています。目を見張るような事実が含まれていたのです。Sweeney氏が2019年にEpic Storeでの異常なDivision 2の不正行為についてUbisoftに謝罪したことも、つまびらかなハイライトのひとつでした。

この他にも、ウォルマートが独自のクラウドゲーミングプラットフォームの開発に取り組んでおり、そのベータ版が今年中に登場する可能性があることも明らかになりました。また、SONYがPSNの収益を守るために、クロスプレイのサポートに課金していることが判明したため、SONYも文書に登場しました

訴訟の見通し

関係者にとってこの裁判は「厄介」な存在に映るでしょう。彼らにとって不都合な内容が明らかになり、書類の提出や証言を法的に求められているからです。ティム・クック氏の証言は、様々な理由からこの裁判の話題の中心となるでしょうし、かたやEpic Gamesの弁護士たちはその進展を心待ちにしていることでしょう。

このような現状ではあるものの裁判はAppleに有利な結果をもたらすと考えられます。反トラスト法は大企業に傾斜ししがちだからです。Epic Gamesはこれまでのところ、Appleに大きなダメージを与えられず、裁判官を感心させるにはほど遠い状況です。強いて言えばEpic Gamesは、せいぜいAppleの収益モデルに小さな打撃を与えられる程度でしょう。また、Appleの他の反トラスト法上の主張を助ける展開なるかもしれません。もう一つの議論、それはSpotifyとの諍いです。

中立的な立場のユーザーにとっての明るい兆しは何でしょう。この訴訟で関係者の実態が明らかになることが、ゲーム業界全体に対して非常に深い洞察を与えるという点です。裁判が進むにつれ、いくつかの不快な事実が明らかになるかもしれません。続報が待たれます。

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