極上のオープンカー! マクラーレン720Sスパイダーは五感を魅了

今回、最も優れた、最も格好いいマクラーレンをご紹介しよう。それは720Sスパイダーだ。もちろん、マクラーレンといえば、「セナ」もあれば、「P1」という超ハイパーカーもあるけど、それらは1億円以上するし、なにしろ台数が非常に限られている。限定なしに普通に購入できるのは720Sスパイダーで、本体価格は3700万円から

そのスタイリングはキム・カダーシアンより目立ちたがり屋だが、とにかくパフォーマンスは偉大だ。この後輪駆動のスパイダーには、720psを発生する4.0リッターV8ツインターボと7速ATが搭載されている。言うまでもなく、同車のネーミングは720psの最高出力から取っている。

全ての開口部・エアダクトはしっかりと意味があって、効果的。
Photo by Peter Lyon

720Sの本格的なエアロは美しい

スパイダーは、基本的に720Sクーペに電動ルーフをつけた仕様で、業界ではこの最もセクシーなプロポーションのひとつと言える。ボディはまるでピカソの絵みたいに大胆に描かれたかのようだ。外観の開口部・エアダクトなどは全て意味があって、フロントの開口部から吸い込まれる空気はブレーキを冷やしたり、サイドから送り込まれる風はエンジンベイを冷やしたりする役割を持っている。また、電動リアウィングは、速度によって上下したりして、思い切り上がった時にはエアブレーキとしての役割もある。彼らがボディー構造の基本にカーボンモノコックを用いていることはご存じのとおり。

720Sスパイダーの走りの良さの秘密は、そのボディの下に秘められている構造だ。カーボンモノコックは別名“バスタブ(湯船)”と呼ばれ、その構造は高い剛性感を保ち、軽量化にも役立つ。正直なところ、屋根を切り取ってしまうと、車両の剛性が低下して、ウィンドスクリーン周りは微妙な揺れが入ることが多いにもかかわらず、マクラーレンはこのスパイダーで、「見事にルーフを下ろした状態でも、剛性がクーペ仕様とほとんど変わらない」ことに成功した。クーペに比べて40~50kg重くなるのはやむを得ないところ。

電動リアウィングは速度によって動く。
Photo by Peter Lyon

ジキル&ハイド的なエンジン特性

僕は10年前に、MP4/12Cというモデルに試乗した時に、「なんだこれは?性能はスーパーカーながら、通勤にも使える毎日乗っていられる乗り心地じゃないか」と感心した。720Sスパイダーも同様。ボディロールやピッチングといった動きは最小限にとどめられ、同時に、路面からの衝撃をしなやかに吸収して受け止める。これらの姿勢を保証してくれるのは、マクラーレンの「プロアクティブ・シャシー・コントロールII」だ。これは“魔法のサスペンション”と呼ばれているらしいけど、乗ってみて納得。

心臓部の4.0LのV8ツインターボは傑作。同エンジンのパフォーマンスは、ジキル&ハイドに喩えられる。というのは、どの路面状況にも対応する魔法のサスと同様に、720SのV8エンジンは渋滞中のノロノロ低速運転から高速まで必要以上に反応してくれる。0-100 km/hの加速は2.8秒なんだけど、4000回転あたりからツインターボが本格的に火を吹いて、恐るべき加速を披露し、乾いたようなメタリックな音が響かせる。この音はたとえば、フェラーリ488のトップエンドのサウンドほどスリルはないけど、エキゾーストノートとしては納得。やはり、思い切りエンジン音を出した時にふと思ったけど、フェラーリの外観とそのV8ミュージックは、イタリアのファッション王が好む雰囲気なのに対して、マクラーレン720Sのデザインとエンジン音は英国風紳士向きだ。

シャシーコントロールのドライビングモードはコンフォート、スポーツ、トラックから選択できる。市街では、コンフォートで充分スポーティかつ楽しく乗っていられる。本当にスポーティに走りたい場合に、「スポーツ」モードに入れれば、ステアリングやアクセルレスポンスがよりクイックに変わるので、ワインディングロードでの走りにぴったり。さらに、サーキットをアタックしたい時は、「トラック」モードを選べば、V8エンジンの限りなく性能を引っ張り出せる。

縦型タッチスクリーンはアップル・カープレーに対応していない。
Photo by Peter Lyon

ワンタッチで調整できる電動ルーフの透明度

でも、僕がこのクルマで一番気に入った特徴はなんと言っても、11秒で開閉可能な電動ルーフだね。トップのパネルには「エレクトロクロミック・ガラス」と呼ばれる特殊な素材が使われている。これはなんぞやと思っている人もいるかもしれないけど、実際に多くの人が使い慣れていて身近な技術と言ったら、驚くだろう。最近、飛行機の窓にも使われている技術で、半透明な状態から透明な状態へとワンタッチで透明度を変えられる。ドライブ中、日光を入れたい時には普通にしておき、太陽が眩しすぎて暑すぎる場合は、パネルを暗くすれば良い。まるで飛行機のシェードみたいなものだ。しかし、このオプションは130万円!

室内も上品。コックピット周辺部のデザインは、基本的にクーペと共通。可動式のメーターパネルの液晶は美しく、動きがスムーズで静か。マクラーレンの縦型のタッチスクリーンは、残念ながらアップルカープレーとアンドロイドオートに互換性がないので付いていない。今の世界では、これらの互換性は不可欠と言われているので、何らかの方法でつけられなかったのかな。運転席の不具合なのか、僕の身長が高すぎたのか、自分にぴったりと合うドライビングポジションは見つけられなかった。しかし、その次の週に乗ったマクラーレンGTでは、完璧なドラポジが得られた。

シルエットはスポーティで美しい。
Photo by Peter Lyon

この手のスーパーカーとなると、高額な話は避けられない。ライバルのフェラーリー488スパイダーやランボルギーニ・ウラカン・スパイダーより高額な720Sスパイダーは、その競合車と比べて速いし、パフォーマンスはP1並みと言える。でも、この3000万円以上の世界に入ると、価格は実際の購入にはそんなに左右しないと思う。やはり、イメージと雰囲気だろう。イタリア勢のルックスは派手で歌が上手なのに対して、720SスパイダーのシルエットとV8の音は英国のジェントルマン的な雰囲気を漂っている。あなたのテイストは英国風? それともイタリアン?

ピーター ライオン

1988年より日本を拠点に活動するモーター・ジャーナリスト。英語と日本語で書く氏 は、今まで(米)カー&ドライバー、(米)フォーブス、(日)フォーブス・ジャパン 、(英)オートカーなど数多い国内外の媒体に寄稿してきた。日本COTY選考委員。ワー ルド・カー・アワード会長。AJAJ会員。著作「サンキューハザードは世界の’愛’言葉 」(JAF出版、2014年)。2015から3年間、NHK国際放送の自動車番組「SAMURAI WHEELS」の司会を務める。スラッシュギアジャパンでは自動車関連の記事・編集を担当し、動 画コンテンツの制作に参画する

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