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異文化を考える(1):インド人大社長は、なぜ私をもてなしたのか?

ITC Grand Central

海外の人々と仕事をする面白さのひとつに、他国の文化を知ることがあると思う。時には、我々の想像を超える考え方を教えてもらえることがあって、本当にネタの宝庫としか言いようがない。今回は、インドに行った時に衝撃を受けた、あるインド人の考え方について書こうと思う。

上の写真は2013年に、インドのあるオフショア開発の会社を訪ねた時のものだ。その辺のお兄ちゃん達と思う事なかれ、当時従業員数500人以上、世界中の企業を顧客に持つソフトウェア開発の会社の経営者だ。顧客のリストも世界に冠たる大企業ばかり。なお会社情報によれば、2020年現在の従業員数は2,000人以上となっている。

さて、随分と真剣に話し合いをしている若きインド人経営者たち。この写真の彼らが何をしているかというと・・・我々を観光でどこに連れて行けばいいか相談している所なのだ(ゲストの我々はそっちのけだったが)。

この日は週末で、彼らにとっては休みの日だった。我々と共同で事業を始めるための訪問だったからだろう、彼らの貴重な休みを使ってまでも、事業のパートナーをもてなそうとしてくれるのがうれしかった。

前日は前日で、会員制のインド料理レストランに連れて行ってもらっている。その店は、イギリス統治時に作られた競馬場の敷地内にあり、大変風情があった。イギリスの影響を受けているのか、インディアンレストランでも洋風のサービススタイルだった。

マハラクシュミ競馬場の敷地内にあるレストラン前にて

さて、観光当日はある島まで船で行くことになり、インド門を通って小さい船に乗った。なお、この門は、イギリスがインドを攻めて来た時に上陸した場所に建っている、歴史的な建造物だ。遠くから見ると大変立派に見えるが、近づくと作りが安っぽくて幻滅するので、くれぐれも離れて見ることをおすすめする。

凱旋門のような形のインド門 (ムンバイ)

1時間弱船に乗って島に到着した。この島には古い寺院があって、今は観光地になっている。中には石でできた立派な仏像もあり、観光客でにぎわっていた。

島から戻って来た後は、現地の本場インド料理レストランに行ってディナー。色んな種類の料理が次から次と運ばれて来て、店から出る時に立つのが面倒になるくらいご馳走になった。日本では食べたことがないものもたくさんあった。

さて、この頃にはインド滞在も3日目になっていた。しかし、これまで仕事の話はまったくしていない。一方的に接待を受けているだけだった。もちろん、これから一緒にパートナーとしてビジネスをするわけだから、接待するのは理解できる。しかし、「現時点でこちらができること」と「彼らのもてなし具合」がどう考えても釣り合わなかった。もちろん彼らにとって、我々に利用価値があるのは間違いなかったが、それにしても明らかに度を超えたもてなし具合だった。

彼らのもてなしぶりが余りに異常だったので、ある時僕は若きインド人大社長にこう聞いた。

「君たちは親切だ。本当にありがとう。でも僕らは赤の他人だよね。どうしてここまで親切にするんだい?いくら何でも、ここまでやらなくてもいいんじゃないか?」

その時の彼の答えは、僕の想像をはるかに超えたものだった。

CEO:「ははは、いいんだよ。インドではね、ゲストが来るだろ?そのゲストはさ、姿を変えて現れた『神様』だって考えるんだよ。」
僕:「へ?」
CEO:「だから僕にとって、君は神様なんだよ。神様をもてなすのに、理由はいらないだろ?」
僕:「・・・(絶句)」

なるほど、彼が僕を神だと思っているのなら、これまでのもてなしぶりにも納得が行く。僕が神様だから、全力でもてなしてるってことか。日本にも「お客様は神様です」ということばがあるけど、それとは全く違う次元の発想だった。そもそも僕は彼らにとって「お客様」ではなかったし。

社内に飾られていた、ガネーシャ(頭が象の形をした神様)

僕は自分のことを既成観念に囚われない人間だと思っていたけど、自分が全く思いもつかない考え方に「こんな発想があるんだ、やられた!」と驚いたし、本当に面白いと思った。そして、これだから色んな国の人に会うのはやめられないと一人でニヤニヤした。

とまあ、ここまでなら美談で終わるのだが、実際には後日悪い方に期待を裏切られることもあった。人間とはそういうものだろう、かえってその方が安心するくらいだ。

インドには結局10日間ほど滞在したが、これまでの人生観をくつがえす体験がたくさんあった。引き続き紹介して行きたいと思う。