HIVを克服した2人目の患者として「ロンドン患者」という名称で知られる男性が、今月、自身の身元を公表しました。
この男性は、この1年ほど、HIVが治癒した2人目の患者「ロンドン患者」として知られています。今月になり、自身がアダム・カスティリェホ(Adam Castillejo)である、と名乗り出ました。
別のがん手術がHIV治癒に結びついた
カスティリェホ氏は、HIVと同時に悪性リンパ腫も患っていました。このがん治療のために幹細胞移植を受けたのですが、その健康なドナーのCCR5遺伝子には遺伝子変異があったのだそうです。
CCR5遺伝子は、多くのHIVタイプにおいてキーとなる受容体です。HIVウイルスは、CCR5に結合することで細胞内へ侵入できるようになります。こういった受容体との結合を邪魔することで、ウイルスの細胞内への侵入を防ぐのが、抗HIV薬を使った抗レトロウイルス療法(ART療法)です。
カスティリェホ氏はドナーから「変異したCCR5遺伝子」を含む移植治療を受けた後、ART療法を受けていませんが、30か月にわたって血漿(けっしょう)からHIV RNAが検出されていません。一般的には、ART療法を中止すると平均2〜3週間で、ウイルスの戻りが見られます。30か月もの間、非ウイルス性を維持するというのは、非常に長い期間だと言えます。
わずかに見つかったHIV DNAにも損傷が
HIVが本当に治癒したかどうかを調べるための検査は、精液、脳脊髄液、腸、リンパ節、直腸から組織サンプルを取って行いました。その結果、低いレベルのHIV DNAがリンパ節組織と血中のCD4 T細胞で見つかったものの、その他の全てのサンプルがHIV DNAに対して陰性を示しました。
研究者によると、見つかった低レベルのHIV DNAについては損傷がみられ、アーカイブされたDNA断片と一致しており、複製不能だということです。 また、カスティリェホ氏のT細胞の90%以上にキメラが確認でき、ART療法中止によるリバウンドの可能性はごくわずかであると結論付けています。
もう1人のHIV治癒患者は「ベルリン患者」として知られています。もう13年間、ART療法を受けていませんが、血漿からHIV RNAは検出されていません。
カスティリェホ氏が本当に治癒したかどうかについては、議論もされているようです。HIV治癒の判断について難しいのは、治癒したかどうかいつの段階で判明するのか、という問題です。長期にわたる臨床観察と経過観察が求められています。