年齢とともに気になり始める白髪。白髪の原因によく挙げられるのが、加齢、遺伝、そしてストレスです。これまでストレスと白髪の関係は漠然としたもので、具体的な生物学的理由ははっきりしていませんでした。ですが、最近の研究で、ストレスが白髪を引き起こす過程が明らかになりました。
ストレスを感じると何が起こるのか
マウスを使ったこの研究では、ストレスを受けることで髪に色を付ける機能が失われるまでの、一連の流れを突き止めました。人がストレスに対面すると「闘争・逃走反応」つまり「これと戦おうか、逃げようか」という反応をします。このとき、一部神経が活性化されることにより、髪の色素を再生する幹細胞に永久的なダメージを与えるというものです(幹細胞とは、自己複製能と様々な細胞に分化する能力を持つ特殊な細胞のことです)。
髪の毛を産生する毛包には、その一つ一つに、交感神経から分岐してきた神経がめぐっています。ストレスを受けるとこの神経が刺激され、ノルアドレナリン(米名:ノルエピネフリン)という物質を放出させます。このとき、周辺にある色素幹細胞がノルアドレナリンを取り込んで、過剰な活性化が起こります。
ノルアドレナリンが引き起こす過剰変換
本来、毛包にある幹細胞は、必要に応じた分だけが色素細胞に変換し、髪に色を付ける働きをしています。残りの幹細胞は、時が来るまで待機しています。ところがこの活性化によって、出番待ちをしているべき幹細胞までもがどんどん色素細胞へ変換したり、毛包から外に出ていってしまうものもあります。その結果、早い段階で幹細胞が枯渇し、髪に色が付かなくなってしまうのです。
ほんの数日のストレスでも影響は大きい
実験では、ほんの数日で完全に色素細胞が失われ、研究チームを驚かせたそうです。色素細胞がなくなったあとは、産生される髪に色が付きません。そしてこのダメージは元に元せない永久的なものです。
様々な角度からの研究アプローチ
研究はまず、ストレスによる全身反応から始まって、個々の臓器システム、細胞間相互作用、そして最終的には分子動力学にまで掘り下げて行きました。 ここまで細かいレベルの発見に至るには、幅広い分野の科学者たちからの協力があったそうです。
期待される今後
この発見は、今後他の臓器や組織についても、ストレスとの関係を探るのに一役買うことになるでしょう。もしかすると、ストレスによる悪影響を修復したりブロックするといった、新たな研究の下地になるかもしれません。研究結果については仮特許が出願され、臨床、化粧品の分野で、企業とのパートナーシップを模索中だということです。まだ先は長いでしょうが、ストレスを受けても白髪の心配はない、そんな日がいつか来るのでしょうか。