グランツーリスモに理想のマツダ「ロータリー・コンセプト」が加わる

グランツーリスモは2年前に、ゲーム界での唯一の公認モータースポーツとしてFIAに求められ、FIA GT選手権がスタートした。FIAを直訳すると「国際自動車連盟」の意味だけど、実際の役割と真の意味は「国際競技連盟」、つまり、F1などを含む世界のモータースポーツを運営・管理をしている。FIAに公認されているということは毎年、勝者はルイス・ハミルトン選手というF1チャンピオンと同舞台でトロフィがもらえるという特権がある。

FIA GT選手権の2つのシリーズには50人のトップ・ゲーマーが参戦

さて、FIA GT選手権とは何か? それには、「ネーションズ・カップ」という個人戦と、3人チーム体制で争う「マニュファクチュラー・シリーズ」の2つのカテゴリーがある。全世界から50人ほどのトップ・ゲーマーが招待され、年間5戦が開催され、11月にはモナコでワールド・ファイナルが行われる。

しかし、面白いことに、FIA GT選手権は、F1やWRCやNASCARなどのリアルワールドのモータースポーツと同様に、オフィシャル・パートナーがいる。2017年に名門腕時計メーカーのタグホイヤ社がグランツーリスモの中でのオフィシャル・タイムキーパーになり、昨年には、ミシュランがオフィシャル・タイヤ・サプライヤーになった。しかも、昨年3月には、トヨタもオフィシャル・パートナーとなり、GRスープラの多田哲哉チーフ・エンジニアが開幕戦に登場し、FIA GT選手権の特別企画として「GRスープラ GTカップ」というワンメークレースを発表した。

このバーチャル・コンセプトは、2015年に発表されたRX-Visionをベースにしている。

マツダがヨダレが出るほど美しいコンセプト

ところが、昨年の同ワールドファイナル会場では、マツダがヨダレが出るほど美しい「RX-VISION GT3 CONCEPT」を発表。同社のデザイン本部長・常務執行役員の前田育男がビデオレターで会場に現れ、コンセプト車を紹介した。

そして、今年3月には、その「RX-VISION GT3 CONCEPT」の使い道がわかった。マツダもFIA GT選手権のオフィシャル・パートナーとして迎えられ、2020年の全戦、及び年間の決定戦「ワールド・ファイナル」出場のマニュファクチュラーとして「RX-VISION GT3 CONCEPT」で参戦することになる。

このレースカーは、2015年に東京モーターショーで発表されたロータリー・スポーツ・コンセプト「RX-VISION」をベースにしたマシンだ。同車は、マツダが得意とするロータリーエンジンを心臓部に持つ後輪駆動プラットフォームを採用するとマツダは言っている。グランツーリスモの中では、どの形のロータリーを搭載するかは明らかになっていないけど、車重1250kgで570psを発揮するスペックなので、かなり戦闘力は高いと思われる。

今年のマニュファクチュラー・シリーズに参戦するマシン。

ビジョン・グランツーリスモは、各メーカーの自由な発想を推進

「ビジョン・グランツーリスモ」というプランは、グランツーリスモ・シリーズ発売15周年を記念して、2013年に発表されたコラボーレーションプロジェクトだ。各自動車メーカーが協力することで、独自のコンセプトカーがデザインされるようになった。製作コンセプトは「各メーカーが考えるグランツーリスモ」であり、これまでに20台以上発表されている。

縛りのない全く自由な発想ができるとしたら、カーメーカーはどんなクルマが作れるか。と提案したのが、グランツーリスモのプロデューサーの山内一典氏だった。この企画で、山内氏は各カーメーカーのデザイン部に限りなく刺激を与えていると僕は思う。ゲームのなかのバーチャルなコンセプトカーが、リアルワールドの平凡なクルマ作りに何らかの良いインスピレーションを与えられたら、それより幸せなことはないだろう。

実は2013年以来、「ビジョン・グランツーリスモ」が開始してから、メルセデスベンツ、ブガッティ、ホンダ、日産、トヨタ、BMW、ランボルギーニなどから20台以上のバーチャル車がデザインされた。そして今年2020年5月25日には、オンライン・アップデートを通じて、グランツーリスモSPORTに「MAZDA RX-VISION GT3 CONCEPT」が登場する予定だ。

昨年11月に、モナコで発表された「ランボV12ビジョン グランツーリスモ」

ランボルギーニもジャガーもビジョンGTに参加

昨年の1つのハイライトだったのが、11月にモナコのワールドファイナルで発表された宇宙船みたいなスーパーカーのコンセプト。アウトモービリ・ランボルギーニのステファノ・ドメニ カーリ社長は「ランボV12ビジョン グランツーリスモ」を発表すると同時に、そのフルスケールモデルをアンベールした。ドライバーはジェット戦闘機のパイロットのように、車両の前方からキャビンに乗り込むスタイルだ。

また、昨年10月の東京モーターショーで共催された「FIA GT選手権 東京ラウンド」で発表された「ジャガー ビジョンGTクーペ」も忘れられない。それは息を呑むほど美しかった。この1台を披露するために、英国本社からジャガーのデザイン本部長のジュリアン・トムソンがわざわざ来日

自動車業界の夢のインキュベーターとしてのグランツーリズモ

ここで重要なことに気づいたはずだ。それは、自動車業界がどれだけグランツーリスモでのプレゼンスを大切にしているのか。やはり、FIA公認のステータスは大きい。昨年の開幕戦にスープラの多田主査が登場したり、東京での発表でジャガー・デザインのトムソン本部長が自ら登場したり、モナコでランボルギーニのドメニカーリ社長本人が現れ、それに、マツダの役員の前田育男がビデオレターで登場するということは、自動車業界はグランツーリスモとのコラボを強化する方向になるということだ。

また、もう一つ重要なポイントは、マツダRX-VISION GT3がゲームに加わるということは、つまり、プロの選手たちだけではなくて、一般のゲーマーも自宅でRX-VISIONに「乗る」こともできるということ。だから、次期のロータリー車が登場する前に、マツダが考えている次世代ロータリーのスポーツカーの走る雰囲気が掴める。ということは、本物のロータリー車が出る前に、誰よりも早くバーチャル試乗ができるかもしれない。

当然、コロナウイルスの感染拡大の影響で今年の開催は困難だと思う。でも、グランツーリスモの良いところは、自宅にいながらにして、FIA GT選手権に参戦できるということだ。

ピーター ライオン

1988年より日本を拠点に活動するモーター・ジャーナリスト。英語と日本語で書く氏 は、今まで(米)カー&ドライバー、(米)フォーブス、(日)フォーブス・ジャパン 、(英)オートカーなど数多い国内外の媒体に寄稿してきた。日本COTY選考委員。ワー ルド・カー・アワード会長。AJAJ会員。著作「サンキューハザードは世界の’愛’言葉 」(JAF出版、2014年)。2015から3年間、NHK国際放送の自動車番組「SAMURAI WHEELS」の司会を務める。スラッシュギアジャパンでは自動車関連の記事・編集を担当し、動 画コンテンツの制作に参画する

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