Mercedes VISION AVTR発表:「アバター」にインスパイアされたコンセプトカーで描く、未来のモビリティーとは

家族や自然との共生を目指した車

Mercedes-Benzは、James Cameron監督の大作「アバター」にインスパイアされた「VISION AVTR」を、新しいコンセプトカーとしてCES2020(電子機器の見本市)で発表しました。「有機的なモビリティー」「乗員と車両の相互作用」というテーマを具現化することを目的としており、環境に配慮した新素材も使用されています。

CO2排出量ゼロを目指す Mercedes の意気込みが表れている車だ。

現在のMercedes-Benzのラインアップにあるどの車種とも明らかに異なるデザインですが、これは完全に意図的なものです。2009年に公開されたSF映画で描かれた家族や自然との共生関係が、この独特の造形にインスピレーションを与えたといいます。

例えば、このVISION AVTRのリアには、33個の「サーフェスエレメント」があります。これは多方向に稼働するスタビライザー(空気の流れを整え車を安定させる装置)で、爬虫類の鱗のように揺れ動いたり波打ったりして、まるでジェスチャーのようにも見えます。Mercedes によれば、EVバッテリーにエネルギーを蓄えるのに役立てることも考えているそうです。

車がまるで生きているかのように動くスタビライザー。印象的な外観だ。

金属を含まないグラフェンバッテリーを搭載

電力エネルギーは、グラフェンをベースとする有機バッテリーに蓄えられます。つまり、VISION AVTRのパワーパックはレアアースでできており、金属を一切含まないということです。実際、このパワーパックの材料は堆肥として再利用することが可能で、従来の電気自動車のリチウムイオンバッテリーが直面していた環境問題の緩和につながります。

リチウムイオンバッテリーに用いられるリチウムやニッケル、コバルトといった金属類は、製造時に大量のエネルギーを消費するだけでなく、リサイクルが難しいことも問題視されています。 環境問題に向き合うためには、走行時のCO2排出量だけでなく、製造時・廃棄時のことも考慮する必要があるのです。

廃棄物やサプライチェーンに関する問題は、バッテリーだけではありません。Mercedesは、生態系のサイクルに影響を与えない超極細繊維「DINAMICA」をシートに使用し、フロアには「カルーン材」を採用しています。カルーン材はインドネシアで収穫できる、成長の早い藤です。

近い将来、車の進化にあわせて、タイヤの姿も大きく変わるかもしれない。

導入されている技術にも注目です。VISION AVTRは特殊な車輪を装着し、前後の車軸を同じ方向または反対方向に駆動することで、約30度横方向に移動することができます。Mercedesはこれを「カニ歩き」と表現しており、特に都市部のような場所での操作性向上に役立つと主張しています。

人の呼吸にあわせて車が動く

ドライバーの生体情報を読み取り、VISION AVTRと接続。キーを持ち歩く必要もなさそうだ。

このコンセプトカーを走らせるために用意されているのはハンドルではなく、センターコンソールにある多機能コントロールユニットです。その上に手を置くと、VISION AVTRがドライバーの呼吸パターンを認識し、システムが起動します。手を持ち上げると、コントロールメニューが手の平に投影されます。そしてダッシュボード全体がなめらかな曲線を描くディスプレイになっており、車両や周辺の状況といったさまざまな情報がここに表示されます。

手を置いた人の呼吸や心拍数にあわせて、ディスプレイの動きが変わるという。

家族や車とつながる安心感

これらの機能は、映画「アバター」の家族や集団に対する考え方に深く根ざしています。例えば家族で乗る場合、子どもたちが後席で何をしているか見守れるよう、フロントのディスプレイに自動的に表示されます。Mercedesによると、両親の脈拍が照明パターンによって座席の背面に再現され、「つながりと安心感」を生むとのことです。

そして、VISION AVTRならではの後席ディスプレイ「マジック・プール」を備えており、若い乗員に合わせたさまざまなゲームやAR体験を提供します。

今はまだ実用性や具体性に欠けるものの、未来につながるヒントがたくさん詰まっている。

MercedesがVISION AVTRに託したものとは

未来のモビリティーとはどのようなものか。今回Mercedesが打ち出した答えは、環境負荷を抑えながら、自然との共生や家族とのつながりを目指した有機的なコンセプトカーでした。

上記で紹介した機能・要素のなかで、実用化されているものは、少なくとも現時点ではないでしょう。ただ、環境に配慮した素材の利用拡大が期待できることは確かで、Mercedesはグラフェンをベースにしたバッテリー技術を研究している自動車メーカーの1つです。

自動車業界を取り巻く環境問題に対する、Mercedesの一つの答えと言えるだろう。

Mercedesが2019年5月に発表した 「Ambition2039」 プロジェクトでは、2039年から新車をCO2排出量ゼロの「カーボン・ニュートラル」なものに切り替えることを目標にしています。これに先駆けて、2030年までにプラグインハイブリッド車 (PHV) や電気自動車 (EV) の売上を、全体の売上の半分以上にすることを目指しています。このVISION AVTRのコンセプトは製品化には至らないかもしれませんが、ここで提示されたテーマのうちのいくつかは、今後のMercedesのロードマップにしっかりと組み込まれることになりそうです。

 

林 汰久也

愛知県在住29歳/ハウスメーカーの営業を経て、IT系ベンチャーのメディア事業に参画。2020年よりフリーのライターとして活動開始/愛車遍歴:マツダ『RX-8』⇒シトロエン『C4』⇒スバル『フォレスター』&ホンダ『クロスカブ50』/ゲームはPS派だが、最近ゲーミングPCが欲しいと思っている。

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