この間、なかなかユニークなシトロエンに乗ってみた。「C5エアクロス」というシトロエン初のSUVにご対面。ランボルギーニやマセラティなどのスーパーカー・メーカーもSUVを出してしまう時代になったというのに、今までこのフランスのカーメーカーからはSUVが登場していなかったのは意外。
オレンジ色の台形がデザインポイント
競争が激しい中型SUVセグメントに登場したC5エアクロスは、独自のデザインが特徴。ライバルのSUVと明らかに違う点は、フロントバンパーに付いている2つの台形。僕が乗ったガンメタ色のクルマにはかなり目立つ鮮やかなオレンジ色の台形がポイントになっていた。あまりにも目立つので、一回、東京・表参道の交差点で停まった時に、何人かの女性がそのオレンジ色のデザインを指さして微笑んだ。実はフロントのドアの下、シトロエンが「エアバンプ」と呼ぶ膨らんだ部分にも、似たようなマークが付いている。
2色のルーフバーがアクセントになった外観スタイリングは、全体的にスタイリッシュと言えるけど、ヘッドライトの上には、不思議なことに昼間光るデイタイム・ランニング・ライトが配置されている。何で不思議かというと、普通はヘッドライトの方が上になるから。でも、この逆さまのデザインはイケる。バランスがいい。テールライトの中も台形のデザインになっており、クロームメッキのエキゾーストパイプが付いている。ちょっと待った。良く見ると、このパイプはエンジンと繋がっていない。パイプに穴が空いていない。見た目だけの、伊達メガネならぬ伊達エキゾーストだ。あくまでデザイン重視。本物のエキゾーストはその下にある。
四角のアクセントは室内にも採用
室内をチェックしてみると、その外観デザインのアクセントである「四角」がふんだんに採用されている。ドアにも、空気の吹き出し口、ドアハンドル、それにステアリングホイール内のスイッチ類も変形四角の模様を使っている。よく見れば、ステアリングホイールの形でさえ、上と下の部分がフラットに削ってあるので、四角く感じる。また、シートなどには柔らかい本革を採用していて、チョコレート色のトリムなどはフランス人の感性とテーストから生まれたデザインだ。はっきり言って、これらの感性を好む人にとって、たまらないデザインだと思う。デジタルのメーター類も個人の好みに合わせられるところがスタイリッシュだ。
運転席はホールド性が良くて、座り心地がいい。珍しく後部席にもスライドやリクライニング機能が付いているので、ファミリー・ユースにはぴったりだ。後部席の両サイドにはアイソフィックスを完備しているので、ベビーシートが2つ付けられる。それにその間にはおばあちゃんが座れるという広さは優秀だ。ただ、2列目の席には、USBポートが1個しかないのは、なぜかな。携帯やゲームを持った3人の子供を後ろに乗せると、誰がそのUSBポートを独占するか絶対喧嘩するだろうね。
力強いターボディーゼルと8速ATの絶妙なマリアージュ
さて、パワートレーンだ。C5エアクロスの日本仕様には、2.0Lのターボ・ディーゼルが8速A/Tとマリアージュ。177psと400Nmを発揮するこのエンジンは十分パンチ力があるし、高速道で合流する時も太いトルクがある。低速では、ガラガラというディーゼル独特の音がするけど、速度が上がれば、かなり静かになってくる。40km/h以上では意外と静粛性がいい。2Lエンジンは、ストレスなく高回転まで吹き上がる反応が強力だし、ターボラグはほとんど感じない。0-100km/hの加速は8秒代とそこそこ速い。今回の試乗で800km以上走行したけど、パワー不足だと感じたことは一回もなかった。それに、8速ATとの相性が良く、シフトショックは目立たなかった。
サスペンションは実は日本のKYBと共同開発した新しいダンパーシステムを採用していて、乗り心地はフランス車らしい割と柔らかなセッティングだ。ということは、市内での低速の走り、また、高速道での100km/h前後での長距離クルーズはしっかりしていて文句なし。ステアリングは少し軽めだけど、路面からのフィードバックはしっかりと捉えている。ただ、コーナーでのボディロールが大きいから、マウンテンロードを攻めたいとは思わない。
それは当たり前だ。このクルマはフランスの感性満載のデザイン重視で、424万円ぐらいの手頃な家族向け。でも、もっとオフロード向けのSUV、または日本らしいデザイン感性を持つSUVに乗りたい場合、C5エアクロスと同価格でより燃費の良い(20km/L)トヨタRAV4やホンダCR-Vに乗っていただければと思う。