デザイン会社のGFGスタイルが生んだ「Bandini Dora」は、有名なブレンド物を持つ喜びこそ少ないかもしれませんが、新時代の素晴らしいルックス(あるいは最も興味深いスタイル)を備えた電動スピードスターです。コロナウイルスを別にすれば、自動車業界にとって最大のニュースは、McLaren「Elva」、Bentley Mulliner「Bacalar」、Aston Martin「V12 Speedster」といったオープンカーに関するものはないでしょうか。ここ数カ月の間に何台のオープンカー(しかも魅力的)をご紹介してきたことか分かりませんが、今回も非常に素晴らしいモデルについて触れることができました。
Bandini Doraの注目すべき点は、スタイルやパフォーマンス、価格だけではありません。GFGスタイル(GFG Style)を設立したのは、かの有名なイタリアの自動車デザイナーGiorgetto Giugiaro(ジョルジェット・ジウジアーロ)と、その息子Fabrizio Giugiaro(ファブリッツォ・ジウジアーロ)です。
ジウジアーロの名に聞き覚えのある方も多いかと思いますが、彼はDMC「DeLorean」、Ferrari「250GT SWB Bertone」、Lotus「Esplit」、Alfa Romeo「Giulia Sprint GT」などを手がけた敏腕デザイナーです。スバル「アルシオーネSVX」や日産「マーチ(初代)」なども彼の手によるものです。
Bandini Doraのスタイルを言葉で表現するのは難しいのですが、過去と現在を融合して心を揺さぶるデザインとしています。Bandini Doraはスピードスターなので、屋根は一切ありませんが、アルミ製のスペースフレームシャーシと湾曲したフロントガラスを備えており、虫や強風がドライブを台無しにしないようになっています。
しかし、他のスピードスターとは異なるデザイン上の最大の特徴は、大きく傾斜したAピラーです。前輪の上部付近からリアにかけて細く曲線を描きながら伸びており、車を横から見ると、まるで屋根があるかのような印象を受けます。
シザードアを開け乗り込むと、車内にはボタンやスイッチ類が見当たりません。代わりにタッチスクリーンのモニターであらゆる操作を行います。イタリアンデザインのスーパーカーらしく、内装には高級な牛革とカーボンファイバーの装飾が施されています。
そして、忘れてはいけないのはBandini Doraが電気自動車だということです。この車には2つの電気モーター(前後の車軸に1つずつ)が備わっており、最高出力536hp・最大トルク500lb-ft(約677Nm)を発揮。停止状態から3.3秒で時速60マイル(96km/h)に到達します。90kWhのバッテリーパックが搭載されており、理論上は280マイル(450km)以上の走行が可能です。
今回ご紹介するのはオープンスポーツカーだけではありません。GFGスタイルの「2030 Desert Raid」についても触れる必要があるでしょう。電動SUVに新たな旋風を巻き起こしそうなコンセプトカーです。Desert RaidはBandini Doraと同じアルミ製のスペースフレームを採用しており、2人乗りという構成も同じです。しかし、Doraとは異なり、Desert Raidは地面からのクリアランスがあり、オンロードだけでなくオフロードに対応した走行モードを備えます。ルーフパネルも開閉する革新的なドアを採用していることも特徴のひとつです。
パワートレーンはBandini Doraに搭載されているものと同じ2基の電気モーターで、出力もほぼ同じです。ただ、Desert RaidはSUVであるためスペックはやや下がり、時速0~60マイル(96km/h)は3.8秒、最高速度は時速155マイル(250km/h)とされています。
GFGスタイルは、スピードスターのBandini DoraとSUVのDesert Raidの生産開始時期や価格を明らかにしていません。それにしても、80歳を過ぎてもなお、第一線で活躍を続けるGirogetto Giugiaro氏には頭が下がります。「自動車デザインの父」ともいえる彼の仕事っぷりを、たっぷり堪能できる2台でした。