10年以上前から、世界のトレンドはSUV。今、どのメーカーも作っている。ここ4、5年は、高級車メーカーまでSUVの存在価値を理解し、今までスーパーカーしか作ってこなかったブランドでもSUVを出すようになった。例えば、最近ランボルギーニやマセラティなどのような高級ブランドが初のSUVを出し、それによって販売台数を倍増させている。
だから、今回乗り比べるロールスロイス・カリナンとベントレー・ベンテイガも、それぞれのSUV登場は時間の問題だった。
ロールスとベントレー 初の4WD SUV
どちらも画期的なクルマになっている。それぞれの外観のデザインに対する意見は分かれるけど、市場のニーズは確かにあった。特にSUVに惚れ込んだアメリカや、高級SUVに関心が高い中東では、この2台を待ちに待ったようだ。また、欧州、特に英国の上流階級もこの2台に対する興味は隠せない。不思議なことに、この2台は優れたオフロード走行性能や多目的の実用性が搭載されているにもかかわらず、
95%のユーザーは必ずと言っていいほど、オフロード走行という冒険はおかさないだろう。
正直な話、先月、「カリナン対ベンテイガの比較レポート」をして欲しいと名古屋に呼ばれた時に驚いた。英国を代表する最高級ブランドであるロールスロイスとベントレーによる初の4WDのSUVは、果たしてどんな走りをするのか。総額は、7200万円。「試乗は慎重に」と念を押された。
はじめにことわっておくが、クルマ自体が全然違うので、実際にこの2台に乗ってみるも、いわゆる「比較」は難しいと思う。
カリナンはBMW傘下、ベンテイガはVW傘下
さて、詳しく見ていこう。まずは、BMWグループ傘下のロールス・ロイス・カリナン。シャシーはファントムで導入されたオールアルミのスペースフレームとほとんど同様のアーキテクチャーを採用し、全長は5.34mで全幅は2mと、ファントムよりも短くて狭い。ただし、全高は1.82mの高さもあり、しかも車重がなんと2.7トンもある。やはりこれだけ寸法がファントムと違ってくると、上品なプロポーションとはかなり異なる。確かにカリナンはどこから見ても、ロールスのDNAを受け継いでいることがわかるけど、外観は美しいというより、実用的。それでも、ファントムのデザインに敬意を払っている。
いっぽう、ベントレー・ベンテイガは、VWグループ傘下のブランドなので、しっかりとポルシェ・カイエンとアウディQ7同様のシャシーを採用しており、ハンドリングは抜群だ。サイズ的には、カリナンよりも全長が20cm短く、全高は8cm低く、全幅は2cm短い。また、大きく異なるのが車重だ。カリナンの2750kgに対して、ベンテイガは355kgも軽い。なんとなくミュルザンヌからのデザインヒントを受けているベンテイガは、カリナンより全高が低い分、プロポーションがスポーティだ。
デザイナーはボディを無理やり縦に引っ張った
でも、カリナンやベンテイガのデザインについて、これだけは言える。デザイナーたちは長年、これらのブランドのセダンやクーぺの曲線やシルエットをできる限り美しく描いてきている。ところがSUVとなると、それらのスタイリングを無理やり縦に引っ張らなければならない。その結果、しようがなくその美しいプロポーションが崩れてゴツい感じになる。
それでも、両ブランドの総合販売台数を見れば、はっきりわかる。ロールスもベントレーも、それぞれのSUVが登場してから、記録的なセールスを出している。つまり、市場のニーズに応えているのだ。顧客に取っては、ルックスはそれほど重要視されていないようだ。それよりもブランド力、言い換えればステータス性こそが全てらしい。
V12搭載のカリナンの走り
では、走りはどうか。ロールス・ロイス初となる4WDモデルの駆動方式は前後トルク配分50:50で、ZF製の8速ATがつき、アクティブ4WSや、48V電源で駆動するアクティブ・アンチロール・システムも備わる。ファントムと同様の6.75LのガソリンV12ツインターボは、571psと86.9kg-mを発生する。
第一印象は、 2.7トンの重さを感じさせないトルクフルな加速性だ。アクセルレスポンスは1500回転から力強く、じわじわとスピードが乗り上がってくる気持ちの良い加速。「マジック・カーペット・ライド」(魔法の絨毯) というサスペンションも、まさにその通りで、言い得て妙だ。既存の自動車高調整式エアサスペンションには容量の拡大されたエアストラットを追加し、オフロードでの衝撃吸収能力が向上している。
運転中、カメラが前方の路面状況を常に感知していて、エアサスが千分の1秒単位で乗り心地を自動的に調整しているので、どの道を走っていても、絨毯というより雲の上を走っているような柔らかい感覚だ。それに、カリナンは100kg以上の防音材を採用しているからこそ、同車は当然、業界一静粛性が優れていると言えよう。しかし、カリナンはやはり大きく、車高が高いので、路面の凸凹を完全に吸収してくれても、市街地ではまるで浮くように上品に走るが、荒れた路面では多少横揺れやピッチングを感じた。
カリナンのハンドルを握った瞬間、ドライバーには、これはファントムと違うことがわかる。ファントムはどちらかというとショーファー付きのクルマなので、一本の指でもハンドルが回せるようになっているのに対して、カリナンはあくまでもオーナー本人がハンドルを握ると予想されているので、ハンドルはより小さく、太くて握り甲斐がある。
また、ホイールベースが長く、車重が重いカリナンだが、4WSがついているので、コーナーでは回転半径が意外と小さい。ブレーキは強力ではあるが、僕としては2.7トンのクルマをストップさせるには、もう少ししっかりとした制動力が欲しいと思う。
カリナンのエンジンサウンドは、普通に走っているときは、ロールスらしく上品で控えめな音作りだ。しかし、シフトセレクターについている「LOW」ボタンを押すと、まるで歌い出すかのようにスポーティな唸りが聞こえてきた。
V8が一番似合うベンテイガの走り
さあ、ベンテイガの走りは、というと まず、基本的にはポルシェ・カイエンと同様のプラットフォームやV8ツインターボのエンジンを採用しいるので、走行性能はカリナンとは全然違う。当然、ベンテイガは基本設計やパワートレーンはそれなりにチューニングして、独自の味付けをしているけどね。W12という12気筒のエンジンは同車のフラグシップにはなっているけど、僕が今回乗ったのは、V8だ。やはり、550psと78.5kgmのトルクを発揮している4リッターV8の方が、ベンテイガの性格に一番マッチングしていると思う。
0-100km/hは4.5秒と、パワーは十二分だし、力強いバリトーン的なエンジン音もベントレー・ミュージックと呼んで良いと思う。 しかも、V8は12気筒より軽いので、ハンドリングはシャープになっている。
また、ベントレー初のSUVには、ZF製8速ATとの組み合わせや、SUVにとって重要なオフロード性能を持つ前:後=40:60となるトルク配分をフィーチャーする4WDシステムを採用する点も注目するべき。あのシャシーのおかげで、コーナーではボディロールが思い切り抑制されており、W12エンジンより軽いV8を積んでいるので、ノーズが軽い分、ターンインが正確でシャープだ。ステアリングの重さも手応えもちょうど良いし、アンダーステアも出ない。ベンテイガV8にはコンフォート/スポーツ/カスタム/ベントレーという4つのモードを選べるダイアルがあって、全てチェックした中で、乗り心地重視とキビキビした走りを両立させたベントレー・モードが一番楽しいと思った。
同モードでは、市街地から高速道まで、アクセル・レスポンス、ハンドリング、乗り心地は気持ちよくカバーできている。パワフルでありながら割りとサスが柔らかめのカリナンと比べると、このV8搭載のベンテイガの方が、その太いトルクとキビキビしたフットワークがドライバーと一体感しているので、スポーティに走る甲斐がある。
室内はとにかく業界一の質感
室内はどうだろう。カリナンのリアドアはもちろん、観音式ドアだ。後部席からはボタンを押してドアを自動的に閉めるのだが、安全を最優先して、自分の力でドアを開けることになっている。クロームのリングが目を引く3連メーターが目をくすぐって、4人乗り仕様の後席シート間には、クーラーボックスやシャンパングラスのストッカーなども用意される。どこを触っても最高級の本革、ウッド、メタルのスイッチ類を採用。とにかく、トリムの完成度や質感は業界最高級以上のもの。
ベンテイガは、メーターが2眼式でタコメータのレッドゾーンは6800rpmからだ。インフォテインメントシステムは8インチのタッチスクリーン式ディスプレイを装備。60GBのハードディスクドライブを内蔵している。同車の最高級の本革シートとステッチのマリアージュは絶妙だし、座り心地もクラスのトップレベルだ。
冒頭で説明した通り、このコラムでは一応、この2台を比較してみるけど、比較ができないほど、クルマが違う。
つまり、カリナンは優雅に上品に力強く乗り回す最高級SUVを求める人が買えば良い。いっぽう、ベンテイガは音楽性があってハンドリング抜群のスポーティ性かつパワー感が欲しい人に選ばれるだろう。カリナンがドンペリとフォアグラの組み合わせなら、ベンテイガは、樽が効いたシャルドネとキャビアに喩えようか。
ほら、乗り味と雰囲気が全然違う。また、カリナンはこの4人乗りの豪華スペックだと、4700万円で、V8ベンテイガは2500万円。さあ、どちらがお好みだろうか。