新世代アーキテクチャーにかけるGMの熱意:コスト減と高収益を実現か

米General Motors(GM)社は、電気自動車向け次世代バッテリー「Ultium」と、製造コストを削減しつつ航続距離を向上させるフレキシブルなプラットフォームを発表しました。GMとLG Chem(韓国・LG化学)とのジョイントベンチャーで共同開発されたUltiumは、バッテリーセルのコストを1kWhあたり100ドル以下にすることに焦点を当てており、400マイル(約640km)以上のゼロエミッション走行を可能にする低価格なEVを目指しています。

GMは3月4日、ミシガン州ウォーレンのGMテックセンターにて、全く新しいモジュール式プラットフォームとバッテリーシステム「Ultium」を発表した。

GMが電気自動車分野に参入していることをご存知の方もいるかと思いますが、今回の発表により自動車業界に新たな選択肢を提示したと言っても過言ではないでしょう。同社は現在、Chevroletブランドから「Bolt EV」を完全電動モデルとして販売しています。Bolt EVはコンパクトなハッチバックで、2020年モデルでは259マイル(約410km)の航続距離(EPA基準)を有します。

しかし同時に、GMは電気自動車における「革命」を起こそうとしているようです。同社はCadillacを次世代電気自動車の主要ブランドとして位置付けていますが、他ブランドからも多くのモデルが登場予定です。かのHummerの名を復活させ、1,000馬力を超えるGMCブランドのハイパワーEVとする「Hummer EV」も話題となっています。これからのGMを支える屋台骨ともいえるアーキテクチャーのひとつが、Ultiumバッテリーです。

高出力・低コストのUltiumバッテリー

当然ながら電気自動車にはバッテリーが必要で、GMはLG Chemと数年前から開発に取り組んできました。その結果生まれたのが、第3世代のEVプラットフォームと連携する、専用のUltiumバッテリーです。セル自体は新しい低コバルトの化学反応を利用しており、100ドル/kWh以下で製造できるとのこと。GMは2017年、Bolt EVの販売価格を145ドル/kWh前後としていたことから、今後はさらなる低コスト化に期待できそうです。

Ultiumはフレキシブルなセル配置が可能。つまり、幅広い車種に搭載できるということだ。

Ultiumは大型のパウチ型セルで構成されています。これらのセルは、バッテリーパックの中で垂直または水平に搭載することができ、レイアウトおよびエネルギー貯蔵においてより大きな柔軟性を有します。充電速度、総容量、航続距離は搭載する車によりさまざまですが、Level 2充電とDC高速充電に対応しています。

GMは、Ultiumバッテリーの対応サイズを50~200kWhと発表。また、200kWhのUltium搭載車の場合、一回の充電で400マイル(約640km)以上走行できると見積もっています。さらに、時速0~60マイル(96km/h) の加速は3秒程度になる可能性があるとのこと。

プラットフォームを多くの車種で共有することで、生産コストを削減することができる。

ほとんどのモデルで400Vのバッテリーパックを搭載し、最大200kWの高速充電に対応するといいます。また、商用トラック向けプラットフォームには800Vバッテリーを搭載することで、350kW高速充電対応も目指しています。

Ultiumと連携した新世代プラットフォームが鍵となる

もちろん、優れたバッテリーを積んだだけでは十分とは言えません。同じく優れたプラットフォームが必要になります。ボディスタイルや価格帯に関わらず、さまざまなモデルを共通のアーキテクチャーに基づいて製造できるようなプラットフォームが理想的です。VolkswagenがMEBプラットフォームに多額の投資をしているのは周知の事実ですが、GMも同等の投資を行ってきました。

「BEV3」 と呼ばれる第3世代のプラットフォームは、Ultiumバッテリー同様に社内で設計された電気モーターを使用。前輪・後輪・全輪といった複数の駆動方式に対応しています。一般的な乗用車だけでなく、ピックアップトラックやSUV、クロスオーバー、商用車まで、あらゆるモデルに採用されることでしょう。

「従来のEVよりも複雑さと部品数を最小限に抑えるように設計されています。」とGMは述べました。「例えば、GMは現在利用可能な550種類の内燃機関のパワートレインの組み合わせに対して、19種類のバッテリーとドライブユニットの構成を計画しています。」

GMには赤字経営を続ける余裕はない

GMはハイブリッド車「Bolt hybrid」に多額の開発資金を投入したため、1台販売するごとに約9,000ドル(約100万円)の赤字が積み重なると言われています。このモデルはすでに販売中止とされているものの、GMにとって大きな痛手となったことは明らかです。Ultiumを搭載する新プラットフォームでは、このような問題は起こらないとGMは主張しています。

GMC Hummer EVは大胆なデザインと卓越したパフォーマンスを備える。

「次世代EV計画の第1世代は利益を生み、さらなる成長への道を開くでしょう。GMの新技術は、顧客の需要を満たすように拡張性を持たせています。これは、中期的に100万台を超えるとされるグローバルセールスの売上予想を、さらに上回ると考えているためです。」

GMはデトロイトのハムトラミック工場に22億ドルを投資し、EVの生産拠点とする計画を明らかにしています。同社は2021年後半に、最初の電気自動車の生産を開始する予定です。しかし、今回披露されたBEV3ベースのEVロードマップが示すように、それは始まりにすぎません。

実際、GMは同社の新技術には目的を超えた効果もあると考えています。VWが他の自動車メーカーにMEBのライセンスを供与するように、GMもバッテリーやその他の技術を他社にライセンス供与する可能性を示唆しています。それが実現すれば、多額の利益をもたらすことでしょう。今後、プラットフォームとバッテリー技術が自動車業界において重要な鍵となるのは間違いありません。

林 汰久也

愛知県在住29歳/ハウスメーカーの営業を経て、IT系ベンチャーのメディア事業に参画。2020年よりフリーのライターとして活動開始/愛車遍歴:マツダ『RX-8』⇒シトロエン『C4』⇒スバル『フォレスター』&ホンダ『クロスカブ50』/ゲームはPS派だが、最近ゲーミングPCが欲しいと思っている。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です