最近、トヨタに異変が起きている。世界のクルマ好きが息を飲むようなちょっとした革命と言っても良いかもしれない。昨年、17年ぶりにスープラが帰ってきた。そして先月、幕張メッセで開催された東京オートサロンで、20年ぶりにトヨタによる本格スポーツカーが劇的なカムバックを飾った。その名は「GRヤリス」だ。しかも、オートサロンで発表された1月10日からの2週間だけで、なんと
2000台の受注が入った。トヨタからの意外なヒットだ。
このエッジーな小型車はただものではない。トヨタの友山茂樹副社長に言わせれば、「GRヤリスは従来のトヨタ車では考えられない、スーパーホットハッチとなった」という。同社の今までの信頼性抜群で平凡かつコンサバなクルマ作りを考えると確かにその通りだ。GRヤリスはWRC参戦のベース車両となる車だ。272psと370Nmを叩き出す1.6リッターの直列3気筒のターボエンジンと新開発の4WDシステムの持ち主になる。
海外ではベタ褒め
海外メディア、特にモータースポーツの本家と言われている英国のオートカー誌は、このGRヤリスのニュースをキャッチした時は、もちろん騒いだ。「トヨタは良くもこの化物を作ってくれた。凄い! 日本から生まれたスーパーカーだ。こんなスペックを持ったクルマは他にない。思い切り張り出すブリスターフェンダー、巨大なグリル、大型タイヤやブレーキ、それにあの爆発的なターボエンジンと考えるだけで、ヨダレが出そう。WRXとランエボ以来の迫力満点のサプライズだ」という。
トヨタは2017年からヤリス(日本名・ヴィッツ)をベースとした競技車両でWRCに復帰した。2018年にマニュファクチャラ部門に勝利を収め、2019年にドライバー部門で総合優勝し、シトロエン、ヒュンダイ、フォードという海外のライバルとの真剣勝負を展開した。
「WRCで通用する4WDスポーツ」の命題
さて、この小型モンスターはどのように生まれたのか。トヨタによると、GRヤリスの開発は2016年の秋に、豊田章男社長の指示で開始した。「WRCで通用する市販4WDスポーツ」という命題が開発陣に与えられたそうだ。社長の記憶には、80年代にスバルインプレッサWRX、三菱ランサーエボリューションと戦ったセリカGT-Fourがあったはず。1999年にWRCに撤退したトヨタにとって、GRヤリスはまるでMVPが獲得できるようなスター選手だ。
ところが、セリカGT-Four以来の空白は長かった。20年ぶりに4WDスポーツを開発するには「トヨタにこの手の車両のノウハウも経験したエンジニアもなく、手探りの出発となった」と友山副社長はいう。
最初は曲がらなかった
同氏が言うには、開発プロセスは辛かったそうだ。「最初のプロトタイプは曲がらなかった。曲がらないと思ったら、突然スピンする。これは大変なことを始めてしまったと思った」と告白する。「どうすれば意のままに操れるGRヤリスが作れるのか。技術者からテストドライバーまでワンチームになって、試行錯誤しながら仕上げた」という。つまり、20年の空白でトヨタのキッチンには4WDスポーツのシェフがいなくなっていた。
GRヤリスをステーキに例えたら、「さあ、どうやって焼き加減がメディアムで脂肪分の少ない松坂牛を再び料理するようになれるのかと言った感じ。でも、さすが、トヨタ。やればできる。欧州で開催された事前試乗会でカモフラージュ付きのGRヤリスに乗った同僚が、「パワー感は素晴らしいし、ハンドリングも文句なし」と言った。「少なくとも表彰台は期待できる」とまで言った。
しかし、WRCに参戦するには、条件がある。新型GRヤリスが本当に2021年からWRCに参戦するには、2020年中にヤリス全体で年間2万5000台、GRヤリスのみで2500台をつくる必要がある。オートサロンで見せた勢いから言えば、毎月2000台というセールスは問題なさそうだ。