人生出会いがあれば、別れがあるもの。別れは簡単ではありませんが、アストンマーティンは現代のアイコンのひとつにふさわしい「V12 Vantage(ヴァンテージ)」に別れを告げようとしています。最大のエンジンを最小のモデルに搭載するという、英国の自動車メーカーにとって非常に優れたレシピで作り上げられた新型V12 ヴァンテージが、322km/hというスピードで私たちの目の前から過ぎ去ろうとしています。
アストンマーティンは、2007年にV12ヴァンテージRSコンセプトを公開し、その2年後に市販されました。2013年には、12気筒エンジンをさらにアグレッシブにしたV12 ヴァンテージSが登場し、ヴァンテージAMR ProやヴァンテージV600といった限定モデルも発売されました。
アストンマーティンは、内燃機関の使用を終了したわけではありませんが、電動と、新型V12ヴァンテージに搭載される5.2リットルV型12気筒ツインターボのような大排気量ガソリンエンジンではなく、より小型のV型8気筒ツインターボなどの組み合わせにシフトされるでしょう。
V型12気筒エンジン搭載されたマシンがこれで最後になるということは、単なるV12ヴァンテージへの別れではなく、近代アストンマーティンの歴史の一幕が下されると言っても過言ではないでしょう。V型12気筒が搭載されたV12ヴァンテージは、最大出力は700ps/6,500rpm、最大トルクは753Nm/1,800-6,000rpmを発生します。8速ATで、0ー97km/h加速は3.4秒です。機械式LSD(リミテッドスリップディファレンシャル)を搭載し、最高速は322km/hに達します。
V12ヴァンテージはたとえ止まっていても、興味をそそられるマシンに仕上がっています。トレッドは40mm拡大され、足元には21インチアルミホイールが標準装備されています。カラーは、サテンブラックとサテンブラックダイヤモンドターン仕上げの2色が用意されています。アストンマーティンは、さらに約8kg軽量されたセットもオプションで選択可能です。どちらも、ミシュランの高性能ゴム、パイロット4Sが装着されます。
フロントには、ダウンフォースを強化し、エアロバランスを整える新しいバンパーとフルワイドフロントスプリッターを装備。グリルは25%拡大され、ボンネットには冷却効果を高めるための「ホースシューベント」が新たに設けられました。一枚板のサイドシルは、モータースポーツからインスピレーションを得たことはもちろん、V12ヴァンテージの旧モデルを思い起こさせるものです。
リアにはディフューザー一体型の新型バンパーと、センターマウントのツインテールパイプエキゾーストシステムが採用されています。最初に目につくのは大きなリアウィングで、アストンマーティンによると、このウィングはトップスピード時に約204kgのダウンフォースをもたらすという。このウィングは、オプションで取り外すことも可能です。
新しいアダプティブ・ダンピング・サスペンション・システム、アンチロールバー、ブッシュ、スプリングとダンパー・アセンブリが採用されています。サスペンションのスプリングレートはフロントで50%、リアで40%向上され、マウントとアンチロールバー剛性は全周で高められたものの、リアに追加されたセカンダリー・テンダースプリングにより、ある程度の乗り心地は確保されているそうです。
ボディの剛性も高められ、ステアリングのキャリブレーションも変更され、よりシャープなレスポンスとフィーリングが得られるようになったほか、ブレーキもアップグレードされています。フロントには410×38mm径ディスクと6ピストンキャリパー、リアには360×32mm径ディスクと4ピストンキャリパーが標準装備され、カーボンセラミックが採用されています。アストンマーティンによれば、通常の鉄製ブレーキに比べて22kg以上軽量化されるだけでなく、高温下でも持ちがよくなるそうです。
一方インテリアは、これまでと大きく変わることはなく、スポーツプラスシートとフルセミアニリンレザートリムが標準装備され、オプションで約7.3kg以上軽量化されたカーボンファイバーパフォーマンスシートも用意されています。さらにオプションとして、ウーブン・レザーとアルカンターラのシートインサート、ダッシュボードのアルマイト仕上げのロータリーダイヤルへのカラートリートメントなど、豪華なインテリアとなっています。
新型V12ヴァンテージは333台の限定生産ですが、すでに全生産台数分の受注があり、予約受付は終了しているそうです。この美しいクーペに対する「空前の需要」は、シリーズを締めくくるにふさわしいもので、予約キャンセル待ちのリストも膨大な数にのぼるようです。納車は2022年第2四半期に開始されると予定されています。