ボルボ 光学イメージング新興企業に投資でフロントガラス全面をAR化へ

ここ数年、自動車業界では、ドライバーが車のシステムを操作するために道路から目を離さなければならないような、注意力が散漫になりがちな状態を防ぐことを重要視し、さまざまな対策を講じてきました。その結果、最近の自動車には、インフォテインメントなどの機能を音声で操作するシステムなど、さまざまな機能が搭載されるようになりました。最近では、フロントガラスに速度などの情報を表示するヘッドアップディスプレイが普及しています。

そんな中、ボルボが、同社のベンチャーキャピタル投資部門であるボルボ・カーズ・テックファンドを通じて、光学と画像技術の新興企業であるSpectralics(スペクトラリクス)社に出資したことを発表しました。ボルボは、これまでにも他の自動車メーカーの先駆けとなる新しい安全技術を開発た歴史があります。ボルボは、まだ開発の初期段階ではあるものの、「有望な技術」に取り組んでおり、この新技術により、自動車の安全性が格段に向上し、ドライバーの車内体験の向上にも貢献できると述べています。

イスラエルを拠点とするSpectralics社は、自動車のフロントガラスや窓など、あらゆる形状やサイズのシースルー面に適用できる新しいタイプの薄膜光学フィルムの開発に取り組んでいます。多層薄膜コンバイナー(MLTC)と呼ばれる、このフィルムは、窓やフロントガラスに画像を重ねて表示することが可能だそうです。つまり、フロントガラス全体が透明な「ヘッドアップディスプレイ(HUD)」となり、現在の自動車に搭載されているHUDよりもはるかに広視野で、高い機能を備えています。

Spectralics社の説明によると、同社のMLTCを自動車のフロントガラスに組み込むと、広視野のHUDとなり、ドライバーは現実世界の環境に仮想のオブジェクトを重ね合わせて距離感を感じることができ、違和感なく様々な情報を確認できるそうです。また、この技術は、HUDの他にも、車内感知用の高度なフィルター、ブラインドプルーフの正面カメラ、デジタルホログラフィックプロジェクションなどでの活用が見込まれます。ボルボは、Spectralics社への投資を発表した際に1枚の画像を提供しただけですが、この投資が功を奏した場合に将来の車に何がもたらされるのかを期待させる画像です。

発表された画像では、フロントガラスに道路標識や看板、道路上の障害物などが表示されています。例えば、進行方向の左側の道路上へ侵入しそうなヘラジカと、それを警告するメッセージのほか、フロントガラスの下部には速度などのデータが表示されています。ボルボは、ブラインドプルーフカメラは、暗闇や霧の中でなど、人間の目視力が低下する状況下でも、カメラから情報を得て、その画像をフロントガラスに重ねて表示できることを、公開した画像から伝えている模様。

この機能が、特に極端に暗い場所や濃霧の中で、ドライバーにどのようなメリットをもたらすかは容易に想像できます。霧の中での運転は、視界が悪くなり、ドライバーにとって最も危険な状況のひとつと言えるでしょう。また、猛烈な吹雪の中でのホワイトアウトの状況でも、カメラの画像により周囲の状況を確認できることは大きなメリットになります。大雪などの悪天候時には、視界が悪くなり、停車を余儀なくされ、立ち往生する事態に陥るだけでなく、他のドライバーに追突される危険性もあります。

ボルボ・カーズ・テックファンドの責任者であるLee Ma(リー・マ)氏は、今回の投資は、MobilityXlabおよびDRIVEとのコラボレーションが成功した結果であると述べています。Ma氏によると、同ファンドは、Spectralics社の技術が次世代のディスプレイやカメラの標準となる可能性があると考えているそうです。確かに、興味深い技術ではありますが、現時点ではいくつかの重要な疑問も。

最大の問題は、この技術がどれだけ高価なものになるかということと、フロントガラス修理時の容易さです。これは、道路の劣化が激しい寒冷地に住む人々にとっては切実な問題です。寒冷地では、道路のひび割れにしみ込んだ水が融けたり凍ったりすることで、比較的短時間で道路が劣化する傾向にあります。

凍結と融解の繰り返しと激しい交通量が重なると、大量の小石や砂利が道路上に発生し、飛び石でフロントガラスにヒビや傷がついてしまったりする可能性が非常に高いのです。また、寒冷地では夜間と昼間の温度差が激しいため、午前中に簡単に修理できる小さなヒビでも、午後にはフロントガラス全体に亀裂が広がってしまうこともあります。

米国の多くの自動車保険会社は、フロントガラスの破損があまりにも一般的であるため、寒冷地では従来のガラス破損を補償対象外にすることが多いそうです。そんなことを考慮すると、この種の技術がフロントガラスの価格をどれだけ引き上げることになるのかが、この技術の障壁となるのではないでしょうか。

ちなみにSlashGearのライターが、最近、2020年式のジープ・レネゲードのフロントガラスを交換したところ、非純正フロントガラスで交換価格は約300ドルだったそうです。また、米国の一部の州では、ドライバーの視界を遮るようなヒビが入った車を運転していると、違反切符を切られることもあるので注意が必要です。つまり、従来のフロントガラスであれば数百ドルで修理・交換ができたところ、Spectralics技術を搭載したフロントガラスのコストが数千ドルになった場合、同技術を搭載した車のフロントガラスを交換するのはかなりの負担になるということを意味するです。

もしかしたら、Spectralics社が開発する薄膜光学フィルムはフロントガラスに貼り付けられていて、それを剥がして新しいフロントガラスに貼ることができるという優れものかもしれませんが、それは現時点では不明です。もちろん、強度の高いガラスをフロントガラスに採用することで、ヒビや傷つきの発生を抑えることはできますが、それもやはりコストが上がってしまいます。Spectralicsの技術は、自動車の安全性を高めるエキサイティングな技術ですが、長期的には自動車の価格にどのような影響を与えるのか、気になるところです。

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