Mersedes Benzは実にさまざまなボディタイプのモデルを販売していますが、ここ数年で最も予想外だったのは、おそらくピックアップトラックの「Xクラス」でしょう。2016年に発表されたXクラスは、高級車ブランドのMersedesが実用性を押し出したモデルでした。しかし、このニッチなモデルは早くも引退が決定したようです。
そもそも「Xクラスなるもの」が存在するということさえ、大半の人には知られていないのではないでしょうか。その要因のひとつは、Mersedes Benzがこのモデルをごく限られた市場にのみ展開していたことにあります。例えば、北米では商用車としての需要があるにもかかわらず、販売エリアとして割り当てられることはありませんでした。
Mersedesは南米、オーストラリア、南アフリカでのヒットを予想していました。基本構造はルノー・日産との共同開発によるもので、スペインにある日産の生産ラインで生産されました。しかしその中身を見ると、ドイツの高級車ブランドならではのデザインを採用しており、これまでのピックアップよりはるかに豪華です。
問題は、豪華さにはコストがかかるということ(当然ながら)。Mersedesは高い価格設定と低い利益性を憂慮し、Xクラスに引導を渡すことにしました。Auto Motor Sport(ドイツの自動車雑誌)のインタビューに対し、Mersedesは、このピックアップトラックが登場してからわずか数年しか経っていないにも関わらず、生産を2020年に終了する予定であることを認めました。
その理由は、数字を見れば明らかです。2019年の世界販売台数はXクラスがわずか15,300台だったのに対し、日産のナバラは2019年上半期だけで66,000台以上と、その差は歴然。価格はXクラスの約49万ユーロ(約591万円)に比べ、ナバラは2万ユーロ(約24万円)も低い設定となっています。
Mersedesは昨年、Xクラスへの期待を抑えざるを得ない状況にありました。利益を生む可能性のあった南米市場への参入計画が頓挫しており、このことについてMersedesは、「ラテンアメリカの顧客が期待する価格」を理由に挙げています。それに応じて、アルゼンチンでの生産計画も棚上げされてしまいました。
古き良きGクラスのような、頑丈でファッショナブルな働き手として期待されていたXクラス。あるいは、プレミアムSUVとなったGLCのように、「プレミアムピックアップ」という新しいジャンルを切り開きたかったのかもしれません。その試みは挫折してしまったものの、ニッチな需要に応えようとしたMersedesの姿勢は評価すべきです。ライバルのBMWも、2019年にX7ピックアップのコンセプトモデルを打ち出しており、Mersedesと同じアイデアに飛びついたことは確かです。
狭い日本国内では扱いづらく、なかなか普及しないピックアップ。何より、日本には軽トラという最強のライバルが存在します。単なる商用車ではなく、実用的な高級車として新しい価値観を打ち出すことができれば、国内での活路も見いだせるかもしれません。