カナダのEVメーカー、エレクトラメカニカ(ElectraMeccanica)社が北米で販売する一人乗りEV『ソロ』に試乗しました。一風変わった乗り物ですが、今の時代において非常に理にかなっています。サイズと重量は、一般的な7人乗りクロスオーバーの4分の1程度。しかも3輪車です。
米国勢調査局によると、アメリカ人のほぼ90%が一人でクルマを運転しており、たった一人の人間にしてはかなりの量の金属が使われていることになります。環境面でのメリットに加えて、今回の試乗では運転のしやすさが証明されました。また、3輪車でありながら4輪車と同等に装備が充実しています。
正面から見ると、Bピラーまでは普通のクルマとシルエットがよく似ています。六角形のフロントグリルとすっきりした形状のヘッドライト、細くて無駄のないフロントガラス、2枚のドア、そしてルーフ。目を細めれば、フロントマスクはメルセデス・ベンツの電動コンパクトSUV『EQC』にも近いオーラを放っています。
座席は1つしかなく、社会的に距離を置く昨今のトレンドにぴったりです。Bピラーからリアに視線を移すと、ボディはリアエンドに向かってギュッと絞られ、1本のタイヤが車体を支えていることがわかります。
その独特のスタイリングはどこか、1970年代に登場したリライアント『ロビン』を彷彿とさせます。ソロと同様に、ロビンもボンネット、2ドア、フロントガラス、ヘッドライト、ワイパーなど典型的な4輪車並みの装備を持っています。しかし、車輪のレイアウトは真逆で、リアに2本、フロントに1本となっています。
ロビンの重心はかなり高く、氷の上でサッカーをするのと同じくらい運転が難しいという欠点がありました。ちょっと遠心力が働いただけで過度に傾いたり、転倒したりする傾向があり、恥ずかしい大惨事を防ぐためにはキミ・ライコネンのような反射神経が必要になります。ありがたいことに、ソロにはそのような問題はありません。
密閉された室内の雰囲気は普通の4輪車と同じ。両側のドアから乗り込むことができるため、狭いスペースに駐車しても、体操選手のように体を屈めることなくクルマを降りることができます。
ラゲッジスペースはフロントとリアに確保。ゴルフバッグは積めませんが、ソロの運転はゴルフをするよりも楽しいです。室内は質素かと思いきや、エアコン、Bluetooth接続機能、バックカメラなどが標準装備されています。ギアセレクターはダイヤル式で、デジタルメーターの隣に配置。シートベルトと一体型のロールバーも装備されているので、二輪車より安全性が高く、耐候性にも優れています。
ボディサイズは全長約3m、全幅約1.2mとこの上なくコンパクト。重心は低く、高い安定性を実現しています。17.3kWhのバッテリーと、後輪を駆動する1基の電気モーターを搭載。フル充電での航続距離は約160kmで、都市部の移動には最適です。
パワーは82馬力と控えめですが、最高速度は約130km/hに達し、勇気さえあれば高速道路も乗れてしまいます。パワーステアリングやワイパー(シングル)を装備しているので、雨天時にも走行できます。着座位置は低く、スポーティな印象を与えます。視界は一般的なコンパクトカーと同じ。
リアウィンドウはないため、バックカメラと2つのサイドミラーに頼る必要があります。バックカメラはわずかなステアリング操作にも素早く反応しますが、ソロの独特の動きに慣れるまでには、時間がかかるかもしれません。
北米での販売価格は18,500ドル(191万円)から。4ドア5人乗りの日産『セントラ』が2万ドルから販売されている中、お手頃感は薄く、大量生産というよりニッチに向けたクルマと言えます。しかし、毎日の通勤に適した実用性は否定しがたく、運転も駐車もカンタン。アクセルを踏み込むと驚くほどピーキーです。
レベル2の充電器を使えば約3時間で充電できますが、一般的な100Vソケットを使用している場合は、一晩かかります。エレクトラメカニカ社はカナダのバンクーバーに拠点を置き、ソロの生産は同社の製造パートナーであるZongshen Industrial Groupの本拠地、中国の重慶で行われています。
ソロは3輪のEVとしては品質が高く、高速道路でもスムーズに走行します。腰を痛めないためにも、大きな段差は避けたほうがいいでしょうが、EVならではの静かな走りを楽しむことができます。街乗りに丁度いい、気軽に使えるクルマです。今まで見たことも乗ったこともないような、コンパクトカーとは思えないほどの魅力的な個性を持っています。
(米スラッシュギア編集部ヴィンセント・グエンによる試乗レポート)