ランボルギー究極のオープンカー ウラカンEVOスパイダー レビュー  

もしもし、ランボルギーニ様。えっ! このウラカンEVOスパイダーがマイナーチェンジだって? 違うんじゃないの? 確かに、ウラカンのモデルライフの半ばとは言えるけど、マイナーチェンジという表現より、スーパービッグ・マイナーチェンジがふさわしいだろう。

デザインのテーマは「六角形」

ドアミラーやドアハンドルなどのデザインのテーマは六角形。
Photo by Peter Lyon

2019年に現れたEVOスパイダーはボディ、電動ルーフ、エンジン、4輪駆動、後輪も操舵する4WS、走りを総合的に制御するコンピューターなどどこを見ても手が加えられている。2014年に初登場した初代ウラカンのスタイリング、加速やエキゾーストノートは迫力満点だった。EVOスパイダーは、その全てをさらに進化させている。まず、触れたいのは、17秒で開閉する電動ルーフ。これも速度50km/h弱までスムーズに静かに開閉できるので、非常に楽しい特徴の1つだ。正直なところ、どのスーパーカーよりもウィンドスクリーンの角度を寝かしているようなので、背の高いドライバーは多少圧迫感を覚える。でも、ルーフを下ろすと、いきなり開放感と自由が取れて気持ちが良い。

ウラカンのスタイリングもそうだったけど、EVOスパイダーの場合はさらに「六角形」をテーマにしたデザインが一新された感じ。フロントの開口部、ドアミラー、エアコンの吹き出し口、内装のタッチスクリーンのアイコン、エキゾースト周りのメッシュグリルなど、全て変形の六角になっていて格好いい。また、フロントバンパーにウイングをイメージしたエアロパーツが組み込まれ、アンダーボディーの空気の流れが見直され、そしてリアのディフューザーがレースカー並みのでき。またナンバープレートの両サイドに配された2本のエキゾーストパイプも、まるでジェット戦闘機のエキゾーストのようだ。全高1180mmしかないEVOスパイダーの隣りに立つと、僕のウエストまでしか届かない。

止まっている時でも、走行しているように見えるスパイダー。
Photo by Peter Lyon

ハイライトは640PSを発揮するV10

また、同車の高性能を予感させるのは、前後に付けられた数字。ランボルギーニ・ジャパンが特別につけた「640」のナンバープレートを見るだけで、同車の最高出力がわかる。そうなのだ。EVOスパイダーには640PSを発揮する5.2リッターV10エンジンとデュアルクラッチ付き7速ATが搭載。ちなみに、最大トルクは600Nm。2018年に出たウラカン・ペルフォルマンテ仕様ゆずりのV10は、ドライバーの感性を限りなく刺激する。簡単にいうと、ペルフォルマンテ仕様はサーキット向けのウラカンだったのに対して、EVOスパイダーは日常向けといえる。

同車のハイライトであるV10はとにかく加速、音、性能が世界のトップクラス。市街地で2000~4000回転でゆっくり走行する時は、エンジン音は名ロックバンド「AC/DC」の歌手ブライアン・ジョンソンみたいな歌声を想像する。しかし、例えば、高速道路に乗って、1速でアクセルをベタ踏みして6000回転まで回すと、隣りに史上最高のテノールのルチアーノ・パヴァロッティが座って、名曲「誰も寝てはならぬ」のクライマックスを歌っている感じがする。何度回転を上げても、鳥肌が立つほどだ。必要のない時でも、気づかないうちにカッチリと動く長めのパドルをシフトながら6000回転のエンジン音を聞こうとしてしまうのはなぜだろう。加速性は言うまでもなく、スーパーカー並み。0-100km/h加速タイムは3.1秒で、最高速は325km/hと公表される。

急加速する時の4輪のトラクションの良さは当然4WDのおかげといえる。4WDシステムには、アクティブなコントロールが加えられ、駆動力配分は、前後30:70をベースに、50:50から0:100まで可変する。どの速度から加速しても、安定性は良く、ドライバーに充分なフィードバックが伝わる。それもEVOの「頭脳」にあたる「LDVI」のおかげだ。どう言うことかと言うと、4WD、4輪操舵、左右のトルクベクタリングを含むシャシーコントロール機能「LDVI」によって、クルマの挙動を自律的に制御できるようになった。このシステムの凄いところは、ドライバーの意思の「先読み」することだ。それは、ドライバーが走りたい方向をクルマが先に読み取り、万が一の時にドライバーをアシストする優れた技術だ。そのせいで、コーナリング性能は驚くほど、フラットで安定しているし、意外にアンダーステアが出ないのは不思議。狙った通りのラインを保ってくれてコーナーの途中で修正する必要はない。

コクピットの主役は、スタートボタンの赤いふた。
Photo by Peter Lyon

内装も外観と同じドラマがある

また、ドライバーの脈拍をさらに上げてしまうのが、ステアリングホイール下端に設けられた赤いボタンだ。これにノーマルの「ストラーダ」から「スポーツ」、そしてサーキット向けの「コルサ」のドライブモードを変更すると、エンジン音がよりスポーティになり、シフトがより速く変わり、足まわりがより硬く、そしてステアリングはよりアグレッシブに変化する。スポーツモードに入った時の劇的なエキゾーストサウンドはよく言えば、血が騒ぐロックミュージックだけど、悪く言えば、近所迷惑だ。

内装も外観と同じぐらいドラマがある。コクピットのデザインは戦闘機にインスパイアされているかのような印象だけど、操作は少し慣れが必要だね。センターコンソールの主役はなんと言っても、真っ赤のふた付きエンジンスタートボタンだ。また個性的なシフトセレクターの一つ、後ろに引っ張るリバース用レバーのデザインも独特で格好いい。ドライブ・モードをセレクトするのに、パドルを一回引っ張る必要があるのに対して、センターコンソールには「パーク」の「P」とマニュアルの「M」が付いている。また、ウインカー、ワイパーのスイッチはステアリング・ホイールの中に入っているし、ギアシフトも独特。

時速50kmまで電動ルーフが開閉する。
Photo by Peter Lyon

シートやエアコン、LDVIの調節は、センターコンソールの8.4インチタッチスクリーンで調整する。このクルマに乗っている時は、常に緊張している。傷をつけたくないし、地面を剃ってしまう可能性も十分あるからだ。だから、ダッシュに付いているノーズを30mm上げるスイッチは重要で、絶対に忘れてはいけない。価格はフルオプション付きで4252万円だと考えると、特に縁石などを乗り超える時は、このノーズを上げるスイッチを忘れないよう、頭に入れておきたい。

フロント、リア、真横からEVOスパイダーを眺めても、名シリーズ「ジェイソン・ボーン」と同じほどドラマがある。内装もドライバーの感性を限りなくくすぐる。17秒で電動ルーフを下ろして、あのV10を6000回転まで回して、ランボルギーニというミュージックを聴きながらコーナーを入ると、あなたはもうスーパーカーのヘブンにいる。でも、小さなマンションが買えそうな4200万円ほどの貯金がなければ、地上に残ることになるけどね。

ピーター ライオン

1988年より日本を拠点に活動するモーター・ジャーナリスト。英語と日本語で書く氏 は、今まで(米)カー&ドライバー、(米)フォーブス、(日)フォーブス・ジャパン 、(英)オートカーなど数多い国内外の媒体に寄稿してきた。日本COTY選考委員。ワー ルド・カー・アワード会長。AJAJ会員。著作「サンキューハザードは世界の’愛’言葉 」(JAF出版、2014年)。2015から3年間、NHK国際放送の自動車番組「SAMURAI WHEELS」の司会を務める。スラッシュギアジャパンでは自動車関連の記事・編集を担当し、動 画コンテンツの制作に参画する

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