米政府機関が調査を検討
TeslaのEVがドライバーの意図に反して加速し、事故を起こしたという報告が相次いでいます。同社はこれに反論し、欠陥を認めていません。
米国の道路交通安全局(NHTSA)は、Teslaの車に“意図しない加速”があったという申し立てについて、調査を検討していることを認めました。嘆願書には123台の異なる車両からの報告が含まれており、当局によると、合計50万台が影響を受ける可能性があるといいます。
これは2013年から2019年まで販売されたTesla Model S、Model X、Model 3をカバーする台数です。NHTSAは「訴状によると、対象車両には意図しない急加速を引き起こす欠陥の可能性があり、事故やけがの原因につながっている。」と述べています。
オーナーから報告された急加速による事故は、単一の状況に限らず、さまざまなシチュエーションで起きています。たとえばペンシルバニア州のあるオーナーは、駐車スペースに車を停めていたときに、急にTeslaが加速したと主張しています。オーナーによれば、「縁石を乗り越えてフェンスに突っ込んだ。」とのこと。
同様の低速走行時の事故は、マサチューセッツ州でも報告されています。ガレージのコンクリートの壁にぶつかって、 オーナーは 「突然前かがみになった」と語っています。彼女によれば、車が加速したのは、閉まっているガレージに近づいたときだったようです。
少し不気味な報告もあります。ドライバーが乗っていない状態で動いたというのです。カリフォルニア州に住む2015年型 Model Sのオーナーは、車のキーをロックしていたものの、「数分後、車は道路に向かって加速し始め、駐車中の車に衝突した。」と話しています。
こうしたTeslaの異常な動きについて、これまでに127件の苦情が寄せられています。衝突事故は110件、負傷者は52人でした。NHTSAは技術的な分析を行ったうえで、正式に調査するか否かを決定するとしています。
米国ではNHTSAに苦情を寄せることは難しいことではなく、特に安全性に関しては意図的にハードルが下げられています。事実上、車の所有者は誰でも安全性に関する苦情を申し立てることができ、米政府によるとこの手続きには5分程度しかかからないといいます。「寄せられた苦情はすべて検討されます。」とNHTSA。「苦情の中には調査につながるものもあります。リコールにつながる場合もあります。」
過去、Tesla社は何度かNHTSAの監視下に置かれました。その中には、クルーズコントロール、車線維持、自動車線変更などに発展した運転支援システム 「オートパイロット」 の安全性に関する調査も含まれています。
Teslaはシステムの脆弱性を真っ向から否定
これに対して、Teslaは同社のブログ内で声明を発表し、一部の車両が予想外に加速したという主張を「まったくの誤り」として否定しました。
https://www.tesla.com/jp/blog/no-unintended-acceleration-tesla-vehicles?redirect=no
(Tesla公式ブログ 2020年1月20日)
声明によると、この問題はよくあるもので、誤ってアクセルを踏んでしまうのが原因だとしています。この主張は車両から得たデータによって裏付けられており、搭載されたセンサーがこの種の事故を防ぐためにどのように機能するかについて、説明しています。場合によっては、誤ってアクセルを踏んでしまうというミスを防ぐことさえできるようです。
同社の調査では、車両データが入手可能なすべてのケースにおいて、「車は設計通りに動いた。簡単に言えば、Teslaはドライバーが指示した場合のみ加速する。」としています。また、Model S/X/3の加速度センサーに2つの独立したセンサーを取り付け、何らかのエラーが発生すると、システムがモーターのトルクを遮断すると説明しています。
運転支援システム「オートパイロット」についても、ドライバーの誤操作を検知・判断し、事故を防ぐのに役立っているとしています。また、ブレーキペダルを踏むと、たとえアクセルを同時に踏んでいたしてもトルクが低減され、車は停止すると付け加えています。あくまでシステム上の欠陥を認めない構えです。
さらに、「この申し立ては完全に虚偽であり、空売り投資家によって行われたものだ。」との主張も見られます。Teslaの株は、2019年12月末時点で、同年6月比で120%あまり上昇しています。株価の急騰は空売り投資家たちに痛手を与え、「失望の冬」とまで言われています。それを踏まえてか、株価を操作するためのデマだ、というのです。
実際のところ、Tesla側に過失があるのかどうかは不明ですが、少なくとも運転支援技術はどのメーカーも未完成であり、ドライバーは車の性能を過信してはいけません。NHTSAに寄せられた苦情には、ドライバーの過失ともとれそうな事故も見られます。当局に苦情を伝えやすい環境も、少なからず影響しているはずです。
完璧な自動運転を実現するには、車の性能だけでなく、社会インフラまで整える必要があります。重要なのは、車が事故を起こしたとき、誰が責任を負うのか、という点です。今回のような論争は今後も繰り返されるでしょうが、責任の所在については注目すべきでしょう。
ドライバーのいない自動運転車が街中を走り回る光景は、まだまだ見られそうにありませんね。