📖 この記事で分かること
・OpenAIのSoraアプリで「Cameo」という名前が使えなくなった理由
・既に存在するCameoサービスとの法廷闘争の全容
・「一般的な言葉」でも商標侵害になるケースとは
・12月19日の審理で決まる今後の展開
💡 知っておきたい用語
・商標権:企業が独自の名前やロゴを守る権利。長年使っている名前は、たとえ一般的な言葉でも法律で保護される場合があります。
最終更新日: 2025年12月15日
2025年11月21日、OpenAIは米国連邦地裁から予想外の命令を受けました。AI動画生成アプリ「Sora」の人気機能「Cameo」という名前を、12月22日まで使用禁止にするという仮差し止め命令です。
これは、2017年から「Cameo」の名前でセレブからのパーソナライズド動画メッセージサービスを提供しているシカゴ拠点のスタートアップ、Baron App, Inc.(通称Cameo)が起こした商標侵害訴訟の結果です。
OpenAIに何が起きたのか
OpenAIは2025年9月30日、Sora 2と呼ばれる新しいAI動画生成モデルを発表しました。この際、ユーザーが自分の短い動画と音声を録音して「似姿」を作り、AI生成動画に登場させる機能を「Cameo」と名付けました。
ただ、この機能は既に存在するCameoプラットフォームと驚くほど似た目的を持っていました。どちらも「パーソナライズド動画メッセージ」を提供するサービスです。違いは、Cameoが「本物のセレブが録画した動画」を提供するのに対し、OpenAIは「AIが生成した動画」を提供する点でした。
実に興味深いのは、OpenAIがMark CubanやJake Paul等の有名人に「Cameos are open(カメオ受付中)」と宣伝させたことです。これが消費者の混乱を助長しました。実際、Cameoの公式SNSアカウントには「OpenAIと提携したんですか?」という問い合わせが殺到し、カスタマーサービスにもAI生成動画についての質問が寄せられました。
OpenAIのCameoに関してはこちらの記事を御覧ください。
「Cameo」をめぐる法廷闘争
Cameoは10月28日、北カリフォルニア連邦地裁に商標侵害訴訟を提起しました。訴状では以下の点が主張されました:
- Cameoは2017年から「CAMEO」の商標を使用し、4つの連邦商標登録を保有(うち3つは不可争的地位を獲得)
- 数千人のセレブが参加する有名プラットフォームとして広く認知されている
- OpenAIの「Cameo」使用により、実際に消費者混乱が発生している
- OpenAIは既存商標を知りながら同じ名前を採用した
一方、OpenAIは「『cameo』は一般的な英語の単語であり、誰も独占的使用権を主張できない」と反論しました。確かに、「cameo」は元々「宝石の浮き彫り」や「映画での短い出演」を意味する一般語です。
裁判所はなぜOpenAIを止めたのか
11月14日の審理で、Eumi K. Lee判事は興味深い判断を示しました。判事は審理の冒頭から「仮差し止め命令を認める方向に傾いている」と述べ、最終的に11月21日にTRO(仮差し止め命令)を発令しました。
判事の判断の核心は以下の点でした:
- OpenAIは「cameo」を単なる記述的用語として使っているのではなく、ブランド名として使用している
- 両社のサービスは「高度に類似」しており、消費者混乱の可能性が極めて高い
- Cameoの商標は連邦登録されており、長年の使用実績がある
- 実際に消費者混乱が既に発生している証拠がある
正直なところ、OpenAIほどの大企業が商標チェックを怠ったのは意外です。ただ、これは単なる「うっかり」ではなく、AI企業が既存ビジネスの権利をどう扱うかという、より大きな問題を浮き彫りにしています。
注目すべき点は、判事がOpenAIの「一般語だから独占できない」という主張を明確に退けたことです。確かに「cameo」は一般語ですが、Cameoが長年この名前でビジネスを展開し、商標登録も済ませている以上、同じ分野で同じ名前を使えば商標侵害になるという判断です。
今後の展開と注目点
仮差し止め命令は12月22日午後5時に期限切れとなります。それに先立ち、12月19日午前11時に予備的差し止め命令(より長期的な禁止命令)についての審理が予定されています。
この審理で裁判所が本格的な差し止めを認めれば、OpenAIは「Cameo」という名前を完全に変更せざるを得ません。すでに数百万人のユーザーが慣れ親しんだ機能名を変更するのは、ブランド戦略上大きな痛手となるでしょう。
でも、これは単なる名前の問題ではありません。AI企業が既存のビジネスと競合する製品を出す際、既存の商標やブランドをどう尊重すべきか、という重要な先例になる可能性があります。
OpenAIは声明で「『cameo』という言葉の独占的所有権を誰かが主張できるとは考えていない。裁判所に我々の主張を伝えていく」と述べています。一方、Cameo CEOのSteven Galanisは「消費者を混乱から守るため、訴訟を起こさざるを得なかった」とコメントしています。
よくある質問
Q: なぜ一般的な言葉でも商標侵害になるのですか?
A: 一般語でも、特定の分野で長年使われて消費者に広く認知されると、商標として保護される場合があります。Cameoは2017年から動画メッセージサービスでこの名前を使い、連邦商標登録も済ませているため、同じ分野で同じ名前を使うと侵害とみなされる可能性が高いのです。
Q: OpenAIは今後どうなりますか?
A: 12月19日の審理で裁判所が本格的な差し止めを認めれば、OpenAIは機能名を変更する必要があります。ただし、OpenAIは「一般語の独占は認められない」と主張して争う姿勢を見せているため、長期的な法廷闘争になる可能性もあります。
Q: 他のAI企業にも影響はありますか?
A: この判決は重要な先例となる可能性があります。AI企業が新機能を開発する際、既存の商標やブランドをより慎重にチェックする必要性が明確になったと言えます。特に、既存サービスと競合する機能を出す場合は、名前選びに細心の注意が求められるでしょう。
まとめ
OpenAIのSora「Cameo」機能をめぐる商標侵害訴訟は、AI企業と既存ビジネスの関係性を考える上で重要なケースとなりそうです。
12月19日の審理結果によっては、AI業界全体が商標権への対応を見直すきっかけになるかもしれません。OpenAIのような大企業でさえ、既存の権利を軽視すれば法的措置を受けることが明確になったからです。
「本物のセレブ動画」を提供するCameo vs 「AI生成動画」を提供するOpenAI――この対立は、単なる名前の争いを超えて、AI時代における既存ビジネスの権利保護という、より大きな問いを投げかけています。
免責事項: 本記事の情報は2025年12月13日時点のものです。裁判の進行状況や判決内容は変更される可能性があります。最新情報は必ず公式発表をご確認ください。
Citations:
[1] https://openai.com/index/sora-2/
[2] https://openai.com/index/launching-sora-responsibly/
[3] https://www.courtlistener.com/docket/71786846/baron-app-inc-dba-cameo-v-openai-inc/
[4] https://www.cnbc.com/2025/11/24/openai-temporarily-blocked-from-using-cameo-after-trademark-lawsuit.html
[5] https://www.latimes.com/entertainment-arts/business/story/2025-11-22/judge-temporarily-blocks-openai-from-using-cameo-in-video-making-app-sora
[6] https://techcrunch.com/2025/11/24/openai-learned-the-hard-way-that-cameo-trademarked-the-word-cameo/
[7] https://www.theverge.com/news/809877/openai-sora-app-character-cameo-updates
