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音楽AI Suno、訴えたワーナーと電撃和解・提携!

2025年11月26日

📖 この記事で分かること
・音楽生成AIをめぐる裁判が劇的な和解を迎えた経緯
・大手レコード会社が相次いでAI企業と提携する理由
・2026年から音楽AIサービスがどう変わるのか
・あなたが使う音楽サービスへの影響

💡 知っておきたい用語
Suno【スノ】:テキストを入力するだけで、歌詞付きの楽曲を自動生成してくれるAIサービス。「ファンキーなオペラ曲を作って」と指示するだけで、数秒で完成した楽曲が手に入る

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最終更新日: 2025年11月26日

音楽業界に激震が走っています。世界最大級の音楽会社ワーナー・ミュージック・グループ(WMG)が2025年11月25日(米国時間)、著作権侵害で訴えていた音楽生成AI「Suno」と和解し、改めて提携することを発表しました。

この展開、実は想像以上にドラマチックです。わずか1年半前、音楽業界は「AIに音楽を奪われる」と危機感を募らせ、法廷で激しく争っていました。それが今、対立していた相手と手を組んで「新しい音楽の未来」を作ろうとしているのです。

音楽業界 vs AI、激しい対立の始まり

2024年6月、音楽業界に衝撃が走りました。ソニー・ミュージック、ワーナー・ミュージック、ユニバーサル・ミュージックという世界3大メジャーレコード会社が、音楽生成AI企業「Suno」と「Udio」を著作権侵害で一斉提訴したのです。

訴状によれば、これらのAI企業は「数十年分の世界で最も人気のある音源を無断でコピーし、AIモデルに学習させた」とされました。レコード会社側は、侵害された楽曲1件につき最高15万ドル(約2,400万円)の損害賠償を求めていました。

正直なところ、当時の業界の空気は「AIを止めなければ」という切迫感に満ちていたように思います。チャック・ベリーの「ジョニー B. グッド」やマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」に酷似した楽曲をAIが生成できてしまう現実に、多くのアーティストが危機感を表明していました。

舞台裏では交渉が進んでいた

ただ、実に興味深いのは、訴訟の裏で別の動きが進行していたことです。

2025年6月、メディアは「3大メジャーがSunoやUdioとライセンス契約を交渉している」と報じました。表向きは法廷で争いながら、舞台裏ではビジネス提携の可能性を探っていたのです。この二面作戦は、かつてファイル共有サービス「Napster」に対して音楽業界が採用した戦略と酷似しています。

そして2025年10月末、最初の和解が成立しました。ユニバーサル・ミュージック・グループが音楽生成AI「Udio」と戦略的合意を締結したのです。これが業界の風向きを完全に変えました。

ワーナーとSunoの「画期的な提携」

そして11月25日の発表です。ワーナー・ミュージック・グループのロバート・キンクル(Robert Kyncl)CEOは、「Sunoとの画期的な提携は、創作コミュニティにとっての勝利であり、すべての人に利益をもたらすものです」と述べました。

提携の具体的な内容は以下の通りです:

2026年からの大きな変更

  • Sunoは2026年にライセンスに基づく新モデルをリリース
  • 現行の旧モデルは利用できなくなる
  • 音声ダウンロードは有料化(無料ユーザーは再生と共有のみ)
  • 有料会員も月間ダウンロード数に制限が設けられる

アーティストの権利保護

  • アーティストは自分の名前、画像、肖像、声、楽曲を新たなAI曲に使うにあたり明示的な許可を得る仕組み(オプトイン方式)を導入
  • プラットフォーム内外で音楽の価値を適切に反映
  • ライセンスモデルに従った運用

さらに驚くべきことに、Sunoはワーナー・ミュージック・グループ傘下のコンサート検索プラットフォーム「Songkick」を買収することも決定しました。これは単なる和解ではなく、音楽エコシステム全体を再構築しようとする壮大な計画の一部なのです。

なぜ今、和解なのか?

対立から協創へ。この劇的な転換には、いくつかの背景があります。

まず、法的な決着には時間がかかりすぎるという現実がありました。AI技術の進化は待ってくれません。訴訟で数年争っている間に、市場は大きく変化してしまいます。

次に、AI音楽の商業的成功が無視できない規模になってきたことです。Sunoは2025年11月19日、評価額24.5億ドル(約3,847億円)で2億5000万ドル(約393億円)を調達したと発表しました。約1億人がSunoを使って音楽を制作しており、AI生成楽曲がビルボードチャートにランクインする事例も出てきています。

そして何より、音楽業界はストリーミング時代の教訓を活かしたのです。かつてNapsterを潰しても違法ダウンロードは止まらず、結局Spotifyなどの合法的なストリーミングサービスと共存する道を選びました。今回も同じパターンです。AIを止めるのではなく、ライセンスという形でコントロールし、アーティストに適切な報酬が渡る仕組みを作ろうとしているのです。

これは「ライセンスモデル」です

ここで少し技術的な話をします。

今回の提携の核心は「ライセンスモデル」という考え方にあります。これは、著作権で保護された楽曲をAIが学習に使う際、権利者に適切な許可を得て、対価を支払うという仕組みです。

従来、SunoなどのAI企業は「フェアユース(公正な利用)」を主張していました。これは「教育目的や研究目的なら、著作権で保護された作品を許可なく使ってもよい」という法的概念です。ただ、商用サービスでこの主張が通るかは法的に不透明でした。

今回の提携により、Sunoは正式にワーナーの楽曲カタログを学習に使う権利を得て、その対価を支払うことになります。そして重要なのは、「アーティストのオプトイン」という仕組みです。

例えば、あなたがLady GagaやColdplayのようなワーナー所属アーティストだとします。AI生成音楽であなたの声やスタイルを使いたいという依頼が来たとき、あなたは「YES」か「NO」を選べるのです。そして「YES」と言った場合、あなたには適切な報酬が支払われます。

これは、AI時代の音楽における権利処理の新しいモデルとして、業界全体に大きな影響を与える可能性があります。AIツールのビジネス活用におけるライセンス問題の全体像については、こちらの記事で詳しく解説しています。

残る課題:ソニーはまだ戦い続けている

ただし、すべてが解決したわけではありません。

ユニバーサルとワーナーはそれぞれUdioおよびSunoと和解しましたが、3大メジャーの一角を占めるソニー・ミュージックは依然としてこれらのAI企業を訴えたままです。また、Sunoに対する訴訟の中で、全米レコード協会(RIAA)は「SunoがYouTubeから楽曲を不正にダウンロードして学習に使った」という新たな主張も追加しています。

音楽生成AI全体を見ても、多くの企業がまだグレーゾーンで運営しています。今回のワーナーとSunoの提携が業界標準となるのか、それとも個別対応が続くのか、まだ予断を許しません。

あなたの音楽体験はどう変わる?

では、この提携は私たちユーザーにどう影響するのでしょうか?

2026年以降のSunoの使い方

  • 無料プランでは、作った曲を聴いたりシェアしたりできるが、ダウンロードはできなくなる
  • ダウンロードするには有料プランに加入する必要がある
  • 有料プランでも月間ダウンロード数に上限が設けられる

これは一見、制約が増えるように見えます。ただ、ポジティブな面もあります。

正式にライセンスされた音楽データで学習した「新モデル」は、より高品質な楽曲を生成できる可能性があります。また、アーティストが自分の声やスタイルを公式に提供する仕組みができれば、「公認AI版」のような新しい音楽体験も生まれるかもしれません。

例えば、あなたの大好きなアーティストが「AI版カバーOK」と公認したとします。すると、そのアーティストの声で自分の作った歌詞を歌ってもらえる、なんてことも実現可能になります。もちろん、その対価の一部はアーティストに還元されます。

音楽業界の新しい時代が始まる

個人的には、今回の和解は音楽業界にとって「正しい選択」だったと思います。

AI技術の進化は止められません。それならば、技術を敵視するのではなく、どうすればアーティストとファンの両方が幸せになれる形でAIを活用できるかを考えるべきです。

Sunoのマイキー・シュルマンCEOは「ワーナー・ミュージックとの提携は、音楽愛好家に向けたSunoの体験をより豊かにし、数十億の人々にとっての音楽の価値を高める」と述べています。ワーナーのキンクルCEOも「創作コミュニティにとっての勝利」と表現しました。

対立から協創へ。これは音楽業界だけでなく、AI時代のコンテンツビジネス全体にとって重要な転換点になるかもしれません。

ただ、現場で音楽を作っているクリエイターの視点で言えば、まだ不安も残ります。本当にアーティストに適切な報酬が渡るのか? AI生成音楽が市場を飽和させ、人間のアーティストの仕事を奪わないか? この問いに対する答えは、これから数年の実践の中で見えてくるでしょう。

でも、少なくとも「対話の扉が開いた」ことは間違いありません。それは、音楽の未来にとって大きな一歩だと思います。

よくある質問

Q: 今使っているSunoはすぐに変わるの?
A: いいえ、大きな変更は2026年からです。それまでは現行のサービスを引き続き使えます。ただし、2026年以降は旧モデルが利用できなくなり、新しいライセンス付きモデルに切り替わる予定です。

Q: 無料で音楽を作れなくなるの?
A: 音楽の生成自体は無料プランでも可能です。ただし、作った曲をダウンロードするには有料プランが必要になります。無料プランでは、再生とシェアのみができます。

Q: 他の音楽生成AIサービスも同じように変わるの?
A: まだわかりません。ただ、ユニバーサル・ミュージックもUdioと和解しており、業界全体がライセンスモデルに向かう可能性は高いと思われます。ソニー・ミュージックの動向が今後の鍵になるでしょう。

まとめ

音楽業界とAI企業の「対立から協創へ」という劇的な転換は、単なる和解以上の意味を持っています。これは、AI時代における著作権とクリエイター保護の新しいモデルを作ろうとする試みです。

2026年から、Sunoを含む音楽生成AIサービスは大きく変わります。より厳格なルールと引き換えに、より高品質で合法的なサービスが提供されるでしょう。そして何より、アーティストが自分の作品に対するコントロールと報酬を得られる仕組みが整いつつあります。

完璧な解決策ではないかもしれません。でも、音楽の未来を考える上で、重要な一歩であることは間違いないでしょう。

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【用語解説】

Suno【スノ】:2023年にリリースされたAI音楽生成サービス。テキストプロンプトを入力するだけで、歌詞付きの完成された楽曲を数秒で生成できる。約1億人が利用しており、評価額は24.5億ドル(約3,847億円)に達している。

ライセンスモデル:著作権で保護された作品を使用する際、権利者から正式な許可(ライセンス)を得て、対価を支払う仕組み。今回の提携では、AIが学習に音楽を使う際、レコード会社とアーティストに適切な報酬が支払われる体系が構築される。

オプトイン方式:利用者が明示的に「同意する」という意思表示をしない限り、サービスや機能を利用できない仕組み。今回の提携では、アーティストがAI生成音楽に自分の声やスタイルを使われることに明示的に同意しない限り、使用されないことを保証する。

フェアユース(公正な利用):著作権法における概念で、特定の状況下では権利者の許可なく著作物を使用できるとするもの。教育目的や批評、研究などが該当するが、商用利用でこの主張が認められるかは法的に議論がある。

Songkick【ソングキック】:ワーナー・ミュージック・グループ傘下のコンサート検索プラットフォーム。アーティストのライブ情報を集約し、ファンに通知するサービス。今回の提携で、Sunoがこのプラットフォームを買収することが決定した。


免責事項: 本記事の情報は執筆時点(2025年11月26日)のものです。音楽生成AIサービスの機能や料金体系、法的状況は今後変更される可能性があります。最新情報は各サービスの公式サイトでご確認ください。

Citations:
[1] https://www.wmg.com/news/warner-music-group-and-suno-forge-groundbreaking-partnership
[2] https://gigazine.net/news/20251126-warner-music-group-and-suno-partnership/
[3] https://wired.jp/article/ai-music-generators-suno-and-udio-sued-for-copyright-infringement/
[4] https://note.com/aimusicjapan/n/nb9762f826666
[5] https://www.musicman.co.jp/business/680570
[6] https://forbesjapan.com/articles/detail/85349
[7] https://jp.reuters.com/economy/industry/APXL7G7RN5K6HFTLLLXNWQPB6Q-2024-06-24/
[8] https://www.itmedia.co.jp/news/spv/2511/26/news070.html
[9] https://www.forbes.com/sites/conormurray/2025/11/25/warner-music-settles-lawsuit-with-suno-and-will-partner-with-ai-music-generator/
[10] https://suno.com/blog/series-c-announcement

KOJI TANEMURA

15年以上の開発経験を持つソフトウェアエンジニア。クラウドやWeb技術に精通し、業務システムからスタートアップ支援まで幅広く手掛ける。近年は、SaaSや業務システム間の統合・連携開発を中心に、企業のDX推進とAI活用を支援。

技術だけでなく、経営者やビジネスパーソンに向けた講演・執筆を通じて、生成AIの最新トレンドと実務への落とし込みをわかりやすく伝えている。

また、音楽生成AIのみで構成したDJパフォーマンスを企業イベントで展開するなど、テクノロジーと表現の融合をライフワークとして探求している。

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